研究課題/領域番号 |
17K02021
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
小幡 尚 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 教授 (30335913)
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研究分担者 |
岩佐 光広 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (20549670)
吉尾 寛 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 教授 (40158390)
赤池 慎吾 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (50570199)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 杣 / 森林鉄道 / 「暮らし」 / 高知県東部 / 聞き取り調査 / 林業 / 行政文書 |
研究実績の概要 |
高知県中芸地域(3町2村)をフィールドに地元役場及び地域団体の協力を得て、インタビュー調査・文書調査を実施した。 ①これまでの調査を通じて、成人男性のみならず女性や子どももまた森林鉄道に様々な形で関わってきたことが明らかになってきた。岩佐・赤池らは、森林鉄道に関連した女性の仕事に焦点を置くことで、これまで光が当てられてこなかった森林鉄道が地域社会の産業史・生活史に及ぼした影響把握を試みた。本年度は、森林鉄道に関連した仕事に従事した経験を持つ女性を含む計27名にインタビュー調査を実施した。調査結果はデジタルデータ(音声・映像)で記録し、文字起こしを完了している。調査を通じて、森林鉄道の敷設と稼働は、土木作業員、トロ乗り、連絡所員、電話交換手、保線手といった多様な仕事を地域社会に創出しており、そのなかには、当時の女性にとって重要な社会的意義をもった仕事があることがわかってきた。これらインタビュー調査から、女性の労働に着目して中芸地域の近代化や地域史の再構築につながる手がかりを得た。 ②旧高知営林局等の文書調査を継続して実施している。これまでに、国立公文書館つくば分館、四国森林管理局等に所蔵された森林鉄道及び国有林関係資料の収集を進め、延べ100点を超える資料の複写・リスト化を行った。特に旧高知営林局の機関誌である『高知林友』は、明治期以降の国有林と高知県民の繋がりを知る貴重な資料である。本年度は昭和5年から昭和13年分(計39冊)の複写を行った。赤池・岩佐らは、明治中期頃に作成された「禁伐林台帳」の発掘・分析を行い、禁伐林であっても海岸部・松林での松露の採取、奧山での兎・鹿等の狩猟や採石等が行われていた利用実態を把握し、山村住民の暮らしの解明につながる手がかりを得ている。 ③中山村旧役場文書の解析を進め、明治期の同村の「暮らし」と戦争との関係について実証的な検証を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①日本森林学会及び林業経済学会等において本研究を紹介する機会を得、インタビュー調査の公開手法や、生態学的視点を踏まえた林業史の再考など学際的分野からアドバイスを得られた。 ②高知県中芸地域の住民・地域団体、行政等に本研究の意義を理解していただき、インタビュー調査及び文書調査における協力をいただくことができている。調査結果の一部は、地元で開催した研究報告会や企画展示という形で地域還元を行っている。 ③中山村旧役場文書の解析が順調に進んでいる。中山村を中心として、周辺町村の明治後期の動向が明らかになりつつあり、今後の検討の基盤となる史実が析出されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査結果及び中芸地域の人々との人的ネットワークに基づいて、インタビュー調査及び文書調査を進める。 ①インタビュー調査では、3つの具体的視点から調査を行う。まず、森林鉄道が設置されていた時期(1910年-1963年)に地元で暮らしていた女性に着目し、仕事や生活における森林鉄道の意義を明らかにする。次に、同じく森林鉄道が設置されていた時期の「杣」に着目し、昭和30年代に伐採道具がノコギリからチェーンソーに機械化された時期を「杣」から「林業従事者」への転換期と捉え、国有林と人々との関わりや社会的地位の変化を明らかにする。そして、3つめは、森林鉄道の廃線以降(1964年以降)の暮らしや産業構造の変化を、生活史の視点から明らかにする。 ②文献調査では、『高知林友』等の地域資料のデジタル化を進めるとともに、これまで収集した資料群を整理し、許可を得られたものから順次インターネット等で公開する。公開にあたっては、地元協力者と協議を行い、地域の資源として活用される形を検討する。 ③中山旧役場文書の解析をさらに進め、論考にまとめる作業を進める。同文書の意義を明確化し、中山村とその周辺町村の近代史から得られる知見と論点について明らかにしていく。また、その現代的な意義についても考察する
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次年度使用額が生じた理由 |
事前に予想していたよりも基礎的な作業に従事することが多く、また資料の検討に多くの時間を割いたこともあり、予算の消化がやや遅くなった。 最終年度である次年度は、研究の進展とその成果の公表が見込まれ、順調に予算を消化することになると考えている。
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備考 |
赤池慎吾(2018)「所感雑感 記憶の中の希望」高知新聞2018年8月20日朝刊 赤池慎吾・岩佐光広(2019年2月)平成30年度中芸のゆずと森林鉄道日本遺産研究報告会
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