本課題は,合成開口レーダ(SAR)により観測される地表面レーダ波後方散乱係数から天水田の湿潤状況(≒生産安定性)の評価を行うことを目的としている.前年度までに, Sentinel-1(C-band SAR)とPALSAR-2(L-band SAR)後方散乱係数時系列データを説明変数として用いた教師なし分類により,天水田の分類がおおむね可能なことを示した. 最終年度は,さらなる評価精度向上と広域的適用に向けた分析を行った.天水田の湿潤度は地形に強く規定されることから,対象地域(コンケン県ウボンラット郡)の天水田をその地形的立地条件によって「低地」「谷間」「丘陵上」の3種類に区分し,それぞれ10地点に標本地点を設定した.その結果,Sentinel-1とPALSAR-2のいずれについても, 2020年3月末から10月にかけての後方散乱係数の時系列変化パターンに地形区分間で明瞭な差異が認められた.さらに同期間の各10地点および周囲のピクセル値×シーン数を教師データとしてrandom forestによる学習・分類を行ったところ,Sentinel-1のOOB誤り率は0%,PALSAR-2 の同値は2.39%であった.Sentinel-1の後方散乱係数は稲の生育状況も反映するため,作付け時期や作付け方法により地形区分内における後方散乱係数の平準化が図られている可能性がある. 上記ウボンラットにおける学習で得られた random forest分類機をウボンラチャタニ県デートウドム郡の天水田に適用したところ,川沿いの水田は「谷間」,低平で河川を中心になだらかに窪んでいる土地の水田は「低地」,緩やかな尾根上の水田は「丘陵」に分類される傾向が顕著にみられた.これはある地域の精査に基づいて行った学習結果が,他の地域にも適用可能なことを示すもので,東北タイ全域の水田の分類に道筋をつける成果である.
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