最終年度は、論文執筆と成果報告につとめた他、2022年3月に実習生を受入れている国内の縫製工場とベトナム北中部にて補足調査を実施し、特にコロナ禍の影響と労働環境の変化を把握することができた。ベトナム調査では、コロナ禍中も工業化が進行し、農村の平均所得が上昇するに伴い、高賃金を求めて移住労働先を日本から他国に転じる「日本離れ」の状況を確認できた。国内調査では、実習生の出身国がベトナムからカンボジアやミャンマーに変わる中、円安により海外工場への受注が国内に戻るなど縫製産業の国際分業構造が再編しつつある現状を知ることができた。 本研究では、技能実習生の最多の送出し国であるベトナムの社会変容とベトナム人技能実習生の労働実態を把握し、ベトナムにおける国際労働力移動の背景と実態を明らかにした。ベトナムでの農村調査や資料収集における制限、日本での技能実習生の厳しい管理体制を鑑みて、初年度から技能実習生向け母語ウェブサイトの運営、実習生の支援活動、参与観察、スノーボール式インタビュー調査など多角的なアプローチにより実態の解明につとめた。その結果、これまで日本において「経済格差」が移住労働を促す主要因と理解されてきたことに対して、本研究では、資本のグローバル化による送出し国での農村の工業化こそが、自給自足や伝統的な労働構造を解体し、農民や女性を賃金労働者へと転化、移住労働者を生み出している実態を明らかにした。また、工業化や移住労働により脱農を遂げる人がいる一方、生きる地を失い絶えず移動を続ける人々や、移住先の過酷な労働から逃げ出したり正面から闘ったりする人々の姿を捉えることができた。 パンデミックによりやむを得ず研究期間を延長することになったが、ベトナム人技能実習生の急増から減少へと至る一連の過程を捉えられたことは、現代の国際労働力移動の実相を体験的に理解するのに非常に有意義であったと考える。
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