研究課題/領域番号 |
17K02031
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
田川 玄 広島市立大学, 国際学部, 教授 (70364106)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 無形文化遺産 / エチオピア / オロモ / ガダ体系 / 文化政治 / 民族文化の表象 |
研究実績の概要 |
本研究は、エチオピアの民族文化をユネスコの無形文化遺産として登録するプロセスを、グローバル・ナショナル・ローカルという三つのレベルのアクターの実践行為として捉える「文化の政治学」であり、エチオピアの最大民族オロモの年齢体系であるガダ体系を対象とする。本研究の申請時に登録には至っていなかったが、2016年12月にアジスアベバで開催されたユネスコの会議において、正式にガダ体系は「ガダ体系、オロモ固有の民主的社会政治体系」というタイトルでリストに登録された。 本年度は、アーカイブ調査と現地調査の二つの方法で無形文化遺産ならびにガダ体系についての調査を行った。アーカイブ調査とは、無形文化遺産の登録のためにユネスコに提出された書類の分析である。ユネスコという国際機関が無形文化遺産の登録申請に際して書類にどのような条件を付け、その条件のなかでガダ体系がどのような特徴を持つものとして提示されているのかが記された資料である。この資料により、オロモのエリートによる民族文化の表象のあり方とその変化について検討することができた。 エチオピアにおける研究調査では、ユネスコの無形文化遺産への登録によりガダ体系を全体テーマとした国際オロモ学会に参加し、オロモ人研究者によるガダ体系研究の動向を調査した。学会では、ガダ体系をテーマにしたシンポジウムのほか、これまで報告されていなかった地域におけるガダ体系の存在が報告されていた。こうした研究者による調査報告なども、無形文化遺産の登録と関係するオロモ民族文化をめぐる言説として捉えることができた。 また、オロミア州南部ボラナ県においてガダ体系の変化および無形文化遺産としての登録の影響についての調査を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年12月にガダ体系が正式にユネスコの無形文化遺産のリストに登録されたことにより、本研究のテーマと方法がより明確になった。特にユネスコにおいて公開された申請書類は、オロモの民族文化の表象がどのように行われているのか、その中にどのような政治的な配慮がなされているのかを明確に示している資料として扱うことができた。また、登録後のガダ体系をテーマとした国際オロモ学会におけるシンポジウムや個別研究の発表内容も、同様な観点から分析の対象となった。加えて、それらの発表がどのような意図で行われたのかもインタビューすることができた。これらのことから、オロモエリートたちが行っていた民族文化の表象の継承と変容についての検討を加えることができた。 一方で、オロミア州ボラナ県における現地調査においては、無形文化遺産についての情報がごく一部に限定されており、地方の文化政策も大きな変化が見られなかったが、今後の変化には注目する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
エチオピア南部のオロモ地域社会のボラナでは、現在もガダ体系の儀礼が行われており、ボラナのガダ体系の役職者や儀礼はオロモの民族文化の表象においてしばしば用いられる。このため、引き続きボラナのガダ体系のあり方について現地調査を行う。特に遍在していた無形文化遺産の情報がどのように拡散していくのか、あるいは無形文化遺産という制度がどのように流用されるのかに注目したい。また、他のオロモ地域におけるガダ体系と国家政治との結びつき、オロモ研究におけるガダ体系の表象のあり方、行政の文化政策におけるガダ体系の扱いなどについて、現地調査を行うことを予定している。ただし、変動の激しいエチオピアの政治状況を見極めて調査地域を柔軟に選定する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初アメリカ合衆国における国際オロモ学会に参加する予定であったが、エチオピアのオロミア州において開催された国際オロモ学会への参加することとなったため。
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