研究課題/領域番号 |
17K02032
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研究機関 | 宮城学院女子大学 |
研究代表者 |
八木 祐子 宮城学院女子大学, 学芸学部, 教授 (70212272)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 北インド / ボージプリー / ジェンダー / 民謡 / ヒンドゥー |
研究実績の概要 |
本研究は、北インドのボージプリー(Bhojipuri)語文化圏の民謡についてデータ・ベース化をおこない、親族呼称やカーストの語彙などについてキー・ワード検索を可能にすることにより、ヒンドゥー女性の家族関係、社会関係を実証的に分析することを目的とする。ボージプリー語は北インドで話されるヒンディー語の東部方言であり、ウッタル・プラデーシュ州東部を中心として、話者人口は1千万人にものぼる。ボージプリー語文化圏は民謡の豊かな地域として知られているが、ヒンドゥー教徒の儀礼には女性しか参加できないものも多く、また女性の民謡は口頭伝承であり、資料化がすすんでこなかった。だが民謡は、調査地域の人々のもつ家族関係や社会関係を読み解く重要なテキストである。申請者が1980年代からボージプリー語文化圏で収集してきた民謡をテキストとして読み解くことで、時系列的な変化や女性独自のネットワークを探ることが可能となり、ジェンダー研究だけでなく家族やカースト研究に新しい知見を提供する。 平成29年度は、北インド、ウッタル・プラデーシュ州のアザムガル県で、申請者がこれまでの調査で収集した儀礼や祭りのさいにうたわれる民謡の資料をコンピュータに、ヒンディー語のソフトを使って、デーヴァナーガリー文字とその英訳を入力する作業をおこなうとともに、また調査地域のアザムガル県の農村において、女性に関わる儀礼や祭りが多くおこなわれる9月から10月、2月から3月にかけて民謡を収集し、収集したデータについて、高齢女性に歌詞の意味や語彙について確認する聞き取り調査をおこなった。インドの農村社会が大きく変化し、歌い手の高齢化がすすむなかで民謡を記録することは緊急性をもつとともに、高齢女性がうたう民謡には多義的な意味やメッセージが含まれており、それを理解し読み解くことはヒンドゥーの社会関係を理解するうえで極めて重要であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
29年度は、6-8月と12-1月に、北インド、ウッタル・プラデーシュ州のアザムガル県で、申請者がこれまでに収集した儀礼や祭りのさいにうたわれる民謡の資料を、購入したコンピュータを活用して、ヒンディー語のソフトを使ってデーヴァナーガリー文字と、その英訳を入力する作業をおこなう予定であったが、10月-1月は、高齢の父が入院し、何度も帰省して介護をしなければならなかったという家庭の事情で、ほとんど入力作業ができず、予定より作業が遅れた。また、インドに出張し、ウッタル・プラデーシュ州のアザムガル県の農村において、ブラタ儀礼や祭りが多くおこなわれる9月から11月にかけて民謡を収集する予定であったが、10月に父が緊急入院したため、9月におこなわれる子どもの成長を祈るジャイトウア儀礼のさいにうたわれるソーハルという民謡は収集して翻訳をおこなったが、10月中旬におこなわれる秋の祭りについては調査ができなかった。 だが、婚姻儀礼や女神の祭りが多くおこなわれる2月から3月にかけては、予定どおり、約1か月間にわたり、調査地域でフィールドワークをおこない、婚姻儀礼のさいにうたわれるビバーフ・カー・ギートという民謡やファグアーと呼ばれる春の季節の民謡を収集することができ、また、データについて、高齢女性に歌詞の多義的な意味や語彙などを確認する聞き取り調査をおこなうことができた。ワーラーナスィーにおいて、調査協力者のAnoop Sharma氏とベナレスで翻訳作業の確認作業もおこなうことができた。また、『インド文化事典』の「暮らし」の章を編集委員として担当し、「民謡」などに関する項目について執筆し、『インド ジェンダー・研究ハンドブック』においても、インドにおける女性の儀礼や信仰について執筆して、研究成果の一部を公表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、データ・ベ―ス化の作業とキー・ワード選定を主におこなう予定である。まず、申請者が、これまでに収集した民謡の入力作業を引き続きおこなうが、作年度は、入力作業が予定より遅れたため、申請者が入力作業に取り組むだけでなく、デーヴァナーガリー文字が読める大学院生や留学生に入力作業のアルバイトを依頼する。ついで、SinghやPinchmanなどのボ-ジプリー語圏に関する他の研究者の民謡に関する資料をデータ・ベース化する。そのさいに、最初に申請者が収集した民謡のデータを集中的におこなったうえで、他の研究者の入力作業にとりくむ。また、データ・ベースのキー・ワード検索に必要な家族関係や社会関係の語彙、社会変化と関わる単語などを、他の研究者の資料も参考にして選定する。8-9月の夏季休暇や及び2-3月の春季休暇に、あわせて30日程度インドに出張し、デリーにおいて、キー・ワード選定や研究全体に関して、ジェンダー研究の第1人者であり、ヒンドゥーの家族研究をおこなっているDelhi University School of EconomicsのPatricia Uberoi教授に助言を受ける。 さらに、インド出張のさいには、ウッタル・プラデーシュ州のアザムガル県の農村において、入力したデータについて高齢女性に歌詞の意味や語彙などの確認作業をおこなうとともに、民謡の収集をおこなう。ワーラーナスィーにおいて、入力したデータが正確であるかどうかを、現地協力者で、ヒンディー語の教師をしており、ボージプリー語に詳しいAnoop Sharma氏にチェックを依頼する。国内では、収集したデータの入力作業をおこなうとともに、キー・ワードの選定が有効か検証する。関連資料の収集のため、国立民族学博物館などにも出張を予定している。途中の成果をまとめ、研究会やワークシップなどで報告する。
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