研究課題/領域番号 |
17K02033
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
田村 愛理 東京国際大学, 商学部, 教授 (50166584)
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研究分担者 |
吉田 量彦 東京国際大学, 商学部, 教授 (30614747)
川名 隆史 東京国際大学, 経済学部, 教授 (60169737)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ユダヤ人 / アイデンティティ / セファラディーム / アシュケナジーム / ミズラヒーム / 近代国民国家 |
研究実績の概要 |
平成29年度では、本研究の第一段階として文献収集や現地調査等を通じて従来の研究を進化させ、相互の研究のすり合わせを行なった。研究は毎月の定例研究会を通じて進められ、同時に外部講師によるセミナーを開催した。 田村はイスラエルにおけるチュニジア移民の調査を予定していたが、政治状況の悪化によりこれを延期し、比較の対象であるポーランド、ロシアにおけるアシュケナジームの調査に切り替えた。ワルシャワのユダヤ人歴史研究所やサンクト・ペテルブルグ大学のユダヤ文化学科において現地研究者と意見交換を行ない、現代イスラエルの母胎ともいうべき第二次世界大戦前のポーランドとロシアにおけるユダヤ人・コミュニティとその文化について知見を深めた。 吉田は、当該研究課題に関連させて「スピノザにおける個人、社会、国際社会-工藤喜作「スピノザの国家観」によせて」というテーマで研究報告を行ない、個人、社会、国際社会に対するホッブズとスピノザの対照的な見解を明らかにした。夏には資料収集のため、ハンブルク・アルトナ地区にある北ヨーロッパ最古のセファラディーム墓地調査に赴き、その結果を「アイデンティティの拠り所としての墓地-ハンブルク・アルトナ地区のユダヤ人墓地の歴史」として報告し、定住当初から専用墓地の確保をしていたユダヤ人たちのアイデンティティ意識等についての分析を行った。 川名は、分割前期ポーランド・リトアニア国家におけるユダヤ人のアイデンティティのありかを探る意味で、改宗の問題に注目し、改宗する側のユダヤ人および改宗を受け入れる側の国家、キリスト教会の態度を示す史料の収集と研究史の整理を行なった。また同時に18世紀以降のポーランド・ユダヤ人のアイデンティティを揺るがした、ハシディズムについても並行してその概要を整理するための作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度には、5月以降に研究発表、文献紹介などの定例研究会の他、二度にわたり外部講師による関連分野に関するセミナー(斉藤洋一氏「被差別部落のアイデンティティ」;内田日出海氏「ライヒストラント時代(1871‐1918年)のアルザス人のアイデンティティ」)を開催し、各研究者間の共通認識を深めるとともに、他分野からの刺激を受け知見の幅を広げることが出来た。また研究会、セミナーは外部の研究者へも開放され、活発な質疑応答もあって、当該研究テーマヘの関心の広さを確認した。 田村はイスラエルでの調査は断念したものの、ミズラヒームとアシュケナジームとの比較を先取りする形でロシア、ポーランドのユダヤ人の調査を行ない、十分な成果を得た。 吉田は、予定された国内での文献収集、研究史の整理を進めるとともに、ハンブルクへの調査出張の機会を得て、とりあえずは墓地の歴史を俯瞰することにより近世ヨーロッパのセファラディームの具体的な姿の一端をつかみ取ることが出来た。そしてそれと関連する形で、スピノザとその周辺人物における破門とアイデンティティ形成の問題に関しても研究を進め、『スピノザの生涯と思想(仮題)』を執筆中である。 川名は、継続して進めてきたポーランドのユダヤ人に関する研究からアイデンティティの問題を抽出する作業を進めた。サンクト・ペテルブルクのユダヤ人社会に関する知見を得たことで、同じアシュケナジーム・ユダヤ人であっても、その歴史的背景からアイデンティティのあり方に違いが出ることを認識出来た。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者である田村の研究視点は以下のように定められる。それは、基本的に多元的かつ移動社会であるイスラム世界のなかのユダヤ教徒アイデンティティと民族領域国家を志向したヨーロッパ社会におけるユダヤ人アイデンティティの比較調査である。更に前者から後者へ移動した人々の個のアイデンティティ意識の変遷へと研究を進めて行く。方法的には、歴史学的な文献資料の収集と共に社会人類学的方法を取る。 吉田の今後の研究は以下の2点を念頭に置きつつ推進される。第1点は、スピノザに関しての破門とアイデンティティ形成の問題を、その周辺人物たちについても掘り下げていくことである。第2点は、ハンブルク・アルトナ地区のユダヤ人共同体の事例を手がかりに、少なくとも西ヨーロッパのユダヤ人共同体一般に当てはまるような、アイデンティティ形成の範型のようなものを明らかにすることである。 川名は、これまでの実績に基づいて、特に改宗の問題を軸に近世ポーランド・リトアニア国家のユダヤ人のアイデンティティのあり方を再構成させるとともに、18世紀中葉に発生した「ユダヤ性」に関する新たな思想運動(主にフランキズムとハシディズム)の研究を通じて、ユダヤ・アイデンティティそのものが作り替えられ、多分化して行く変遷の過程を跡付けて行くことを今後の研究目標とする。 以上の研究目標を達成するために、文献調査やフィールドワークに加えて、内外の関係研究者を招いて研究会を開催し、多角的な研究視点を確保する。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査旅行中に購入予定としていた図書が、当初の予想より安かったため、差額が生じた。
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