研究課題/領域番号 |
17K02033
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
田村 愛理 東京国際大学, 商学部, 名誉教授 (50166584)
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研究分担者 |
吉田 量彦 東京国際大学, 商学部, 教授 (30614747)
川名 隆史 東京国際大学, 経済学部, 教授 (60169737)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ユダヤ人 / マイノリティ / アイデンティティ / セファラディーム / アシュケナジーム / ミズラヒーム / 越境的ネットワーク / 近代国民国家 |
研究実績の概要 |
COVID-19によるパンデミックの影響は2020年度も世界を覆い、昨年度に引き続き本研究の最終段階において予定されていた海外調査を不可能とする事態となった。このため本研究計画自体はさらなる延長を企図せざるを得なくなり、学術振興会に研究期間の延長を申請し、許可を得た。2020年度においては、以上の理由から各研究者は、国内において出来得る研究の遂行と文献収集を行った。田村は、2019 年3月の現地調査によるインタヴューに基づき、ジェルバ島のユダヤ教徒のみならずイバード派の民間信仰への研究を進め、イバード派がユダヤ教徒ネットワークと相似形の国際的外部ネットワークを有しており、閉じたマイノリティ集団ではないことを示し、マイノリティ集団の複合的アイデンティティ構造への関心を深めることができた。 吉田は、海外での調査・文献収集を一切行えない環境に置かれたため、前年度来のユダヤ人墓地研究に関しては進展が見られなかった。一方、これまでの研究から落穂拾い的に派生したスピノザ受容史に関する研究成果を、いくつかの学会で発表した。また研究会においては、ベルグソンによる共生的コムニタス空間の哲学的解釈を行い、研究会の今後の方向性への糸口をつけた。 川名は、引き続き18-19世紀ポーランドのユダヤ人アイデンティティの変遷の過程を追った。2020年度は19世紀の「改革派」ユダイズムを軸に研究を進め、その成果を『東京国際大学論叢』に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、前述したようにパンデミックによる国際的移動が困難となったため、海外調査は行えず、各研究者は各自の研究の深化と進捗に取り組むこととなった。各自の研究成果はZoom研究会で発表され、国内の外部研究者にも開放され、研究成果の発信に考慮した。以上のように、COVID-19による非常事態宣言が度重なる世情にあっても、各自の研究成果は順調に進展し発表することができた。本研究プロジェクトは、2022年3月までの研究期間延長を認められたので、事態が改善された暁には、研究発展に欠かせない現地調査を進める準備とさらなる研究継続への基盤を整えることが可能となった。 田村は、現地の研究協力者とメールで連絡を保ちつつ、過去のインタヴューの再整理や事実確認、文献調査などを進め、研究成果の一部を上智大学イスラーム研究センターの刊行物(SIAS Lectires5)に論文として発表した。 吉田は過去3年間の定例研究会で行った調査報告を統合し、論文執筆を準備中である。また2020年度内に刊行を予定していた評伝『スピノザの生涯と思想(仮)』は、新型コロナウィルス関連の対応により完成が遅れていたが、2021年4月時点で本文全15章を脱稿。講談社現代新書編集部と刊行時期等についての打ち合わせに入っている。 川名は、ポーランド・ユダヤ人のアイデンティティの変遷の過程を追う方針を中心に据え、18世紀末の神秘主義的傾向の思想研究に引き続き、19世紀の現実主義的な改革派の研究を進めた。両方の成果は論稿として公表しており、相対的には順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
田村は、引き続きユダヤ教徒の越境的アイデンティティの保持/変容に関する研究を行う。既にジェルバ島のイバード派とユダヤ教徒との民間信仰における相互浸透性を確認することができたが、今年度は、事情が許せば現地調査を行い、両者の共同経済活動などについて現地調査を進める。さらに、両者が相似形を示す複合アイデンティティ構造の解明に研究を進める。また従来の知見を国内マイノリティ問題と連携させていくために、アイヌや離島の越境文化圏との比較研究も進めていく予定である。 吉田は、ユダヤ人哲学者スピノザとその周辺人物に関する研究を、評伝『スピノザの生涯と思想(仮)』にまとめ、2021年度内に刊行する。ユダヤ人のアイデンティティ形成における墓地の役割については、上記評伝でも数箇所で言及しているが、ハンブルクでの調査結果を軸に独立の論文にまとめて発表する。 川名は、ユダヤ人アイデンティティの変遷の研究を継続させる。ポーランドを含むロシア帝国領内のユダヤ人の革命運動の中で、ユダヤ人としての意識がどのように現れ、どのように自覚されてきたのかを社会思想史の手法で究明する。 以上の研究目的を達成するために、各自の文献調査やフィールドワークに加えて、互いの研究成果のクロスオーヴァーを行い、多元社会が一時的にせよ出現した各地域の社会状況とこれを可能にした個々の人々のアイデンティティ構造を比較する。これらの比較研究により、共生社会が存続する/崩壊する際のそれぞれの条件を抽出する研究へと発展させて行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:2019年度に引き続き、2020年もCOVID-19収束の見通しが付かず、パンデミック進展により現地調査が遂行困難となった。そのために、研究期間の延長を再申請し、許可された。 使用計画:田村は、ジェルバ島への調査を予定しているが、万一パンデミックが収束しない場合は、すでに現地で作り上げた人脈を頼み、資料の送付や翻訳の可能性を考慮する。また、日本のマイノリティ研究に資するために、アイヌ等国内マイノリティの 越境文化圏構築との比較研究にも歩を進めて行く。吉田、川名については分担支出予定額を消化し終えたため、次年度使用はない。
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