研究課題/領域番号 |
17K02034
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
伊藤 みちる 大妻女子大学, 国際センター, 講師 (70768019)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 白人性 / カリブ海 / オーラルヒストリー / トリニダード / バルバドス / ジャマイカ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、研究代表者のトリニダードとバルバドスの白人性に関する先行研究に引き続き、旧英領カリブ3国(トリニダード・バルバドス・ジャマイカ)における白人性の特徴と歴史的な構築過程を比較するものである。本研究が定義する白人性は、時と場所により異なる意味を持つ流動的な概念であり、さらに多くの場合、非白人に対する根拠のない差異と優越性の信仰、そして社会経済的特権を意味するとしている。つまり本研究は、白人性の多様性に着目し、①複合的な社会階層・階級の中での人種間の軋轢の中で、他者との交流を通じた白人としてのアイデンティティの構築過程、②差別を生み、差別化の根源となる集団で、経済的・文化的強者である白人と白人性についての理解、③グローバル化が進む現代社会における文明の衝突、偏見や差別の構造解明、④異文化許容・多文化共生を可能にする個人の態度や社会の4点を、トリニダード・バルバドス・ジャマイカにおける事例を総合的に比較し、その特徴を究明することにある。 今年度は、このような研究を進めるため、以下のような資料収集、論文執筆を行った。 ◆資料収集:2018年2月にトリニダード(約2週間)で現地のヨーロッパ系市民を対象にオーラルヒストリー聞き取り調査を行った。さらに科研費以外の大妻女子大学の研究費で、2017年8月にバルバドスとトリニダード(約3週間)で同様の聞き取り調査を行った。また現地西インド諸島大学のセント・オーガスティン校およびケイブ・ヒル校の図書館や資料館においても資料調査を行った。 ◆論文執筆:現地調査で入手した聞き取り調査による一次資料については、すべて文字起こしが完了した。その資料に基づき、論文にまとめて雑誌に提出した。現在印刷中である。 ◇「トリニダードとバルバドスにおける白人性の比較」『人間生活文化研究』
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記したように、初年度はトリニダードとバルバドスに焦点を絞り、現地での一次資料収集や調査対象者の所有文書の複写などを行い、ほぼ計画どおりの調査成果を得ることができた。現地研究協力者の尽力もあり、現地滞在中は予想以上に効果的かつ効率的に調査を行うことができた。さらに本年度の現地調査対象者からの情報拡散で、現地の多くの人々から調査希望の連絡を頂いた。本年度は限られた現地滞在期間の中、調査対象となることに積極的な方々の期待に応えられず、次回の現地調査に持ち越しとなった。しかし既に次回現地調査の調査対象者のリストアップが完了したため、次年度以降の現地調査対象者募集にかける時間を節約することができ、より効率的に現地調査を行う下地ができた。 本年度の現地調査により収集した資料には、本研究の目的である旧英領カリブ海3国のうちの2国であるトリニダードとバルバドスにおける白人性構築過程を実証的・総合的に研究するために重要な資料が含まれており、従来の内外における研究では明らかにされていない新たな成果を示すことができた。 さらに、上記論文以外に、トリニダードとバルバドス、それぞれの白人性の特徴について研究論文を作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、トリニダードとジャマイカで現地調査を行う。前者については、既に何度か現地調査を行っているが、現地研究協力者の失踪など様々な問題を抱えてきた。そのため新たな現地研究協力者を任命し、現地滞在中の日程調整を含めた統括準備の段階から連絡を密にしていきたい。現地ではヨーロッパ系市民に対する聞き取り調査を行う。今まで本研究のために一次資料収集を行ってきたのは、今までに先行研究を行ったことのあるフランス系市民への聞き取りが大半を占めている。そのためフランス系以外のヨーロッパ系の市民に対する聞き取りを行う必要がある。主にイングランド系、スコットランド系、アイルランド系、スペイン系としてアイデンティティを持つ対象者の選定を行う。 後者ジャマイカには、非常に小さいヨーロッパ系コミュニティしか存在しない。さらに現在のジャマイカにおけるヨーロッパ系市民についての社会研究は管見の限り多くは存在しない。そのため現地研究協力者の協力を最大限仰ぎ、まずは現地でなるべく多くのヨーロッパ系ジャマイカ人に聞き取り調査ができるように準備を始めていきたい。 第二に、研究成果の公表を行う。この点は、2017年度においては計画しただけしか履行できなかった。2018年度は原著論文のみならず、報告や、一般市民向けの発表など、様々な形で発表を行うべく、既に予定に組み入れているところである。具体的には、『人間生活文化研究』への掲載や、現地研究協力者からの招待を受けている西インド諸島大学セント・オーガスティン校(トリニダード)や西インド諸島大学ケイブ・ヒル校(バルバドス)、また西インド諸島大学モナ校(ジャマイカ)やトリニダード・トバゴ大学での講演である。さらには、現地滞在中に様々な形でお世話になっている現地在留邦人の方々を対象とした報告会も予定している。
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