最終年度の研究実績は以下の3つに集約される。 ①英語・日本語の学術論文以外に、2017年度から本助成を受けて取り組んで来た「旧英領カリブの多文化共生社会に関する実証的研究:白人性のオーラルヒストリー分析」を、学界のみでなく一般市民をも対象として、イギリスの雑誌に"White Identity in the Caribbean"と題し発表した。 ②2月4日から20日までの期間、トリニダード・トバゴ共和国において聞き取り調査、および西インド諸島大学、トリニダード・トバゴ大学、現地国立図書館や聞き取り調査参加者の自宅などで第一次史料の取集を行った。また西インド諸島大学において、海外研究協力者らとの研究会を実施した。未だカリブ海地域におけるヨーロッパ系市民に関する社会学的研究は僅少であるため、現地調査・報告を全面的に支援するとの申し出をいただいた。 ③同期間、西インド諸島大学において、現地研究者や学生、一般市民を対象とした研究発表会を実施し、広く研究成果を発表することができた。また同テーマの研究への参加希望者が多数名乗り出てくれたことで、後続研究への確かな足がかりを得ることができた。さらに一般市民のうち複数のヨーロッパ系市民からは、配布資料として提示した、1970年代を生きたヨーロッパ系市民が、インド系とアフリカ系がヨーロッパ系から搾取され続けてきた「ブラック」として一丸となり社会における不平等是正を求めた、米国の公民権運動から派生した「ブラック・パワー運動」から、彼らの白人としての意識にどのように影響したのかという語りに共鳴したとの反応を得た。ヨーロッパ系市民が白人であることを強く認識させられた「ブラック・パワー運動」に焦点を当て、どのようにカリブ海地域のヨーロッパ系市民の白人性形成が影響を受けたかについて、後続研究として考えたい。
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