研究課題/領域番号 |
17K02043
|
研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
根川 幸男 国際日本文化研究センター, 研究部, 機関研究員 (40771506)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 移民船 / ブラジル / 越境的時空間 / 越境体験 / 記憶 / 文明化 / メディア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1908年から40年代初頭に日本~ブラジル間に就航した移民船の越境的性格と教育・文明化の機能を、船会社・移民関連団体の広報誌記事や移民船客の記憶・体験を通して解明することである。 初年度となる平成29年度は、①日本国内とブラジルで移民船体験者に対するインタビュー調査を行い、インタビューデータや古写真・乗船記念品等のライフドキュメントを収集し分析を開始した。また、②日本、ブラジル、台湾、韓国、イタリアで文献調査を行い、古写真・船内新聞・乗船名簿等を収集、各国の移民船研究の成果を確認し、日本の移民船の特徴の解明に努めた。加えて、ブラジル行き移民船を運航していた大阪商船の広報誌『海』全号を閲覧し、目録化した。 これらの調査を承け、雑誌論文として、「一九一〇年代前半ブラジル行き移民船の航海―横山源之助報告による厳島丸航海を中心に―」を『海事史研究』第74号に、“Uma Mistura de Brasil e Manchuria: Globalizacao da Familia Moderna Japonesa vista atraves da Historia da Familia Sakiyama”をAnais dos XI CIEJB/ XXIV ENPULLCJ(第11回ブラジル国際日本研究学会・第24回ブラジル日本語・日本文学・日本文化学会年報)に発表した。また、サンパウロ人文科学研究所、全南大学校、日本移民学会等内外の機関・学会において、本研究の成果を口頭で発表した。 さらに、海外移住と文化の交流センター移住ミュージュアム2017年度秋季企画展「神戸から世界へ、世界から神戸へ!ブラジル移民の船上体験―神戸開港から世界一周航路まで」(平成29年10月28日~30年1月21日)を企画・監修するとともに、同企画展図録を執筆・発行し、研究成果の社会還元に努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初平成29年8月に予定していたサンパウロ人文科学研究所での成果報告を含むブラジル調査は平成30年3月に実施したものの、日本国内と併せて、①インタビュー調査、②文献調査では十分な成果が得られた。それに加えて、台湾、韓国、イタリアでも文献調査を行い、各国の移民船研究の成果を確認し、日本のブラジル行き移民船の特徴を、他の海域を含むグローバルな地域連関のなかで解明していく端緒を開いた。①②で得た資料や知見により、日本のブラジル行き移民船の多方向的メディアとしての役割とそれにともなう移民船客の越境体験(衣食住、教育、アイデンティティ・世界観の再編等)の独自性を明らかにする資料的裏付けが可能となった。 また、日本、ブラジル、韓国において本研究の課題と成果の一部を発表し、台湾やイタリアで現地研究者とのネットワーク形成を行ったことは、本研究の今後の遂行上大きな効果が期待できる。 とりわけ、本研究の過程で、海外移住と文化の交流センター移住ミュージュアムからのオファーを受け、当初の計画にはなかった企画展の監修を担当し、2017年度秋季企画展「神戸から世界へ、世界から神戸へ!ブラジル移民の船上体験―神戸開港から世界一周航路まで」を開催できたことは、本研究の課題と成果を広く一般に公開する好機となった。さらに、同企画展の図録を執筆・発行・配布することによって、研究成果の社会還元の一助とすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
二年目に当たる平成30年度は、日本とブラジルにおいて、①インタビュー・ライフドキュメント調査、②文献調査を継続する。それとともに、平成29年度に得た資料の分析を進める。日本では、平成29年度に目録化した大阪商船の広報誌『海』掲載の移民船関係記事の分析を行い、内台航路、朝鮮航路との比較によりブラジル行き移民船の特徴の解明を進める。また、ブラジルでは、平成29年度調査で得た新たなインフォーマントを対象にインタビュー・ライフドキュメントの追跡調査を行う。 これらの研究の経過と成果を、次のような内外の学会で報告する予定である。(1)日本移民学会2018年度大会(6月23日~24日、南山大学)において、自由論題「還ってきた少年―M氏の復航移民船体験と「還移民」研究の展望」を発表し、平成29年度の調査で得られたT.M.氏の復航移民船による体験を分析し、移民が単なる送出国・地域から受入れ国に移動するだけでなく、その逆コースを再移動し、第三国を経て還流するという双方向的・多方向的な運動であることを明らかにする。(2)XII Congresso Internacional de Estudos Japoneses no Brasil(第12回ブラジル国際日本研究学会)(8月28日~30日、サンパウロ州立カンピーナス大学)において、他の研究者3名とともに、パネルディスカッション「近代日本人の海洋体験とその歴史・文学上における影響」を開催し、コーディネーターとして近代日本人の移民船体験の文明史的意味について論じる。 以上の活動とともに、平成31年度の成果公開をめざし、学術論文を『移民研究年報』等学術誌に投稿するとともに、小中学生を対象にしたワークショップ開催の準備を開始する。
|