研究課題/領域番号 |
17K02047
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
相馬 拓也 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (60779114)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルタイ山脈 / 環境適応 / 遊牧社会 / 伝統知(T.E.K.) / ヒューマン・エコロジー / 減災 |
研究実績の概要 |
本研究は極北系モンゴル遊牧民の極限環境への適応戦略の実証的な解明を目的としている。初年度(2017年度)は、とくに現地で古より受け継がれてきた生存戦略の伝統知(TEK)と、減災術の記録の記録・回収に重点を置いた定量社会調査を実施した。以下3つの系統によりこれら伝統知の詳細な体系化を試みる。調査系統①:極限環境下で生き抜く伝統知の記録・収集/調査系統②:家畜行動と牧畜生産性の特定/調査系統③:家畜管理法と労働投下量の計数化・可視化。 2017年度は第I期~第III期のフィールド調査(実働日数58日間)により、次の1~3のデータ収集を実施した。1. 課題「T1 定量社会調査」を牧畜世帯(117世帯)を対象に対面式の訪問調査で実施した。インタビューからは冬季災害(ゾド)への対処方法、在来薬用植物の利用法、家畜の傷病対処などの生活技法や家畜飼養に関する伝統知が多数収集された。また、動植物や気象予知法に関するオーラルヒストリーなど、民俗学上の定性データも多数収集された。2. 課題「T2 家畜行動群のGPS計測」「T3 集乳量/乳製品生産量」を実務支援者3名とともに実施した。また、各世帯の家畜群から選び出したヒツジ・ヤギ3頭の首にGPS機器を装着し行動分析を行った。3. 遊牧民のライフコース調査からは、オオカミやユキヒョウからの家畜襲撃についての体験談が多数聞かれ、とくにユキヒョウによる獣害被害の現状とローカルな対策が明らかとなった。 2017年度の成果と活動報告は独自開設のウェブサイト「相馬拓也研究室」(somatakuya.jp)を通じて公開している。また「雲南懇話会 (第42回)」 (2017.9.23)、「ユキヒョウ・シンポジウム2018」 (2018.3.10)の2度の講演会で一般に向けて発表し、広く意見や改善点の回収も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度は、現地でのカウンターパートおよび関係諸機関との高度な連携体制の確立により、当初予定よりもデータ収集面でおおきな進展がみられた。また、実務支援者の出身地や親戚縁者を通じたスノーボール式人脈開拓により、地域の長老・古老人物とのコンタクトに成功した。そのため計画当初にはなかった「ローカルな土地利用観の民族地理学」「ユキヒョウをめぐる民俗伝承」など、新規テーマの開拓と情報収集も可能となった。これらは日本地理学会の機関誌および学会で発表済みである。当初の計画課題と連動して、ローカルな伝統知の理解に広がりをもたらす成果となっている。 一方で、当初予定の調査地に物理的なアクセスが困難となった場所、また調査許可の取得が新たに別途義務付けられた場所もあった。そのため、予備調査地点の活用により、データ欠乏が発生しないような対処の可能性を視野や活動を展開する。
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今後の研究の推進方策 |
2年度(2018年度)は、第IV期~第VI期フィールド調査[実働日数約60日間]の実施により、データ収集を実施する。調査地点SS1~SS4を中心に課題「T4. 家畜管理行動/日帰り放牧の行動観察」、「T5. 牧畜世帯の労働投下量測定」を中心に実施する。 また同年度より、社会調査面のデータ収集を協力者・支援者(3名)の別働隊により分担し、約100世帯を目標にインタビューを実施する。 初年度にあきらかとなったユキヒョウ/オオカミによる家畜被害のなかでも、ユキヒョウによる獣害、さらに家畜被害に対する遊牧民の報復的な密猟は、調査対象地でもとくに懸念される問題となっている。野生動物と遊牧民の暮らしの共生圏の確立は、本課題の目的意識の中枢でもあることから、「ユキヒョウ/オオカミなどの家畜被害・対処行動」についても、ひきつづき追加項目として調査を継続する。 調査対象地アルタイ山脈は、人間が居住空間とする中央ユーラシアの山岳地域のなかでも、とくに冬季の冷温環境と植生資源の乏しさが指摘される。そのため、アルタイ地域での暮らしの特殊性を浮き彫りとするために、2018年度よりキルギス、カザフスタン、ネパール、インド北部などの山岳環境との、比較検討の必要が生じている。同地域でのフィールド調査の実施により、研究寡少地でもあるアルタイ山脈を山岳適応と牧畜文化の文脈で相対化し、より広範な議論の枠組みへと組み込むことが可能となると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属本務校の学内助成金(特定課題研究(A))の採択があり、旅費・人件費等で当初支出予定の旅費・謝金等で一部減少が生じたため、170,570円の持越しが発生した。
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