研究対象国のモンゴル国の入国制限が2022年5月に緩和され、6月に現地で追加の資料収集を実施した。ただし、COVID-19により、遊牧民の社会にも著しい混乱と、外国人来訪による感染拡大などの迷信などの広まりから、遠隔地でのフィールド調査は断念した。ただし全期間を通じて本研究では、150日間以上のフィールド調査を実施することができた。そのため、当初計画の以下3系統5項目の研究課題で、大幅に予想を上回るデータ収集を実施することができた。 T1.牧畜世帯(約300世帯)を対象に、①家畜管理技術、②減災術、③移動頻度・適地選定プロセス、④禁忌・伝承、⑤自然環境に関するフォークロア、のオーラルヒストリーを集中的に記録する。T2.家畜群の歩行距離・範囲などをGPS機器により計測する。T3.集乳量/乳製品生産量を測定し、世帯毎の酪農生産力を特定する。T4.家畜管理行動および日帰り放牧を行動観察し、アクトグラフにより可視化・分析する。T5.心拍数計測機器を用いて日々の活動量を測定し、牧畜世帯の労働投下量およびエネルギー効率(kcal/kcal)を測定する。 得られた民族誌データは、主要調査地ホブド県、オブス県、バヤン・ウルギー県の6地点で比較分析し、固有環境によって異なる、遊牧民の環境適応戦略を実証することができた。さらに、モンゴル遊牧社会の抱える、地方での若者の遊牧離れと人口流出によるマンパワーの喪失、減災の伝統知の継承者不足など、社会問題化するコミュニティの災害対処能力の低下、などに対して、1. 遊牧民の在来知の体系化、2. 極限環境下での生存戦略の解明、3. 地域コミュニティへの科学的知見と成果の還元、により貢献した。 そのため本研究の掲げた、モンゴル西北部に暮らす西部モンゴル遊牧民に連綿と受け継がれる「気候変動と極限環境への適応戦略の実証的解明」に、文理融合の手法で肉迫することができた。
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