研究課題/領域番号 |
17K02048
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
竹田 真紀子 愛知学院大学, 総合政策学部, 講師 (30521744)
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研究分担者 |
山旗 張星允 愛知学院大学, 総合政策学部, 教授 (50293717)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 複言語主義 / 分断社会 / ミャンマー / 多様性の尊重 / 多言語教育 / 民族平等 / 平和構築 / 社会的アイデンティティー |
研究実績の概要 |
平成30年2月にThanlyin townの尼僧院学校において導入した複言語主義に基づく教育に関するインタビュー及びアンケート調査を8月に実施した。調査対象は、子供35名、尼僧(ビルマ族1名、パラウン族2名)、民族語教員1名、教育委員会の委員1名、政府のカリキュラムで他の科目を教えている教員(ビルマ族)5名である。この調査から明らかになった特に重要な点は、子供たちだけでなく、大人であるビルマ族の教員も関心を示し子供たちと一緒にパラウン語の授業に参加していることである。子供達の多くが話す言語を学ぶことによって子供との距離が縮まるとともに理解が深まり授業が円滑に行えるようになったとの意見があった。またカレン語の試験的導入を8月に実施し、3月から本格的に始動した。ナガ語に関しては、言語教員を探すのに非常に困難を強いられたが、6月から実施予定である。また昨年度から準備をしていたMawlamyaineの仏僧院は、Thanlyin townと違い政府のカリキュラムを教えている学校ではなく、子供たちを夕方の時間に預かり職業訓練を含む様々な科目を提供している。つまり尼僧院のように子供達が寺院に住んでいて時間的に融通がきく学校ではないため、学期中に通常の科目とともに民族語の授業を実施することが難しく、子供たちが休暇中である12月と3-5月に実施されているモン語のクラスにおいて調査を実施することになった。この学校は、モン族が約半数、残りがカレン族とビルマ族で構成されている。また当初から計画していたYe townにおいても民族組織が管理している学校の先生と子供たちに学外のコミュニティ活動としてのカレン語の導入をすべく準備を進めている。また人権教育に関しては、女性市民社会団体の協力を得て実施することになった。平成30年度は、その内容や実施方法に関しての打合せおよび準備を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究が遅れている主な原因は、平成29年度にプロジェクトの導入が遅れ2月になったことが主な原因である。また本研究は、紛争地域ではなく、比較的安定している地域(ヤンゴン郊外、モン州)で実施してはいるものの、依然として「平和構築のための多言語教育」に関する理解を得るのは難しい状況にある。現在ミャンマーにおける言語教育は、少数民族の母語教育を通した言語・文化の権利の保障に関することが議論の中心であり、母語以外の少数民族の言語をビルマ族やその他の少数民族が学ぶことに関しての議論はない。そのため理解を得るための交流を持ち、何度もプロジェクト実施に向けて研究協力者(学校関係者)と打合せをする必要があった。またその上で、試験的導入を経て理解を得る必要がありさらに多くの時間を要した。そのため現状としては、Thanlyin townの尼僧院で、子供の多数派の母語であるパラウン語の授業を先行して平成29年度末に導入し、少数派のカレン語、ナガ語に関しては試験的導入を実施した上で、やっと導入に至った次第である。またMawlamyaineの仏僧院では、子供たちの多数派(約50%)の母語であるモン語以外の導入は現状難しい状況である。しかしこの地域は、ビルマ族やカレン族の人口も多いため複言語主義が目指す状況が部分的には実現できる可能性は高い。またまだ導入後のデータ収集は実施できていないが、モン語がこの地域の多数派の言語であることもあり、ビルマ族及びカレン族の子供たちもモン語の学習に積極的な態度を示していることが2019年3月の導入時のインタビュー調査において確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
課題は大きく分けて3点ある。一つ目は前年からも課題であったが、協力支援者(民族語の先生や学校関係者など)に本研究の意義を理解してもらうこと及び多様性の尊重への理解を深めてもらうことである。そのため今年度は、研究計画では想定していなかった大人への理解促進のための活動を積極的に実施しなければならなかった。よって研究の打合せだけでなく、日本語や英語の授業を子供たちや研究支援者を含む地域コミュニティに実施したり、日本文化や自身のイギリス留学時の話をする特別授業を企画・実施して、言葉を学ぶことが多様性への理解につながる可能性を大人たちに体験してもらう機会を作った。そうすることで信頼関係が少しづつ構築できた。よって時間はかかったが必要なプロセスであったと理解している。今後も継続的に研究促進のための大人への理解の促進に向けた活動を実施することが研究を推進していく上で必要であると考えている。二つ目は、プロジェクトの管理が非常に難しいことである。Thanlyin townの尼僧院学校でパラウン語のクラスが先行していたわけであるが、学期ごとに学校のスケジュールも変わるため、他の授業と民族語の先生の予定が合わず、多くの子供たちが継続的に授業に参加できない結果となった。また問題への報告も数ヶ月後になってから受けたため調査対象の子供が限定される結果となった。よって3月に実地調査に向かった際に、民族語の先生と学校関係者と共にスケジュール調整を行い今学期中は変更しないことを確認した。三つ目は、子供達の多くは民族地域で学校に通えない貧困層の子供たちであるため、両親の都合等で尼僧院を離れなければならない子供も多く流動性が高いことである。よって継続的に民族語の教授を受け続けることができない子供たちが少なからず存在する。この点に関しては、対応が難しいため対象者の数を確保することで対応したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は8月と3月末に実地調査を行なった。そのため3月の調査の旅費やその他の調査に関わる支出の計上が大学の経理上で平成31年度4月になってしまった。よって平成30年度の調査において使用した支出額を平成30年度に計上できていないことが、次年度使用額が生じた理由である。実際には、当該年度の支出は概ね予定通りである。
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