研究課題/領域番号 |
17K02054
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
橋本 行史 関西大学, 政策創造学部, 教授 (30319826)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 古民家再生 / 町家再生 / 低成長 / 新常態 / 地方創生 |
研究実績の概要 |
2019年度は、グローバル化・人口減少・東京一極集中の下の地域社会が置かれた状況を新常態(ニューノーマル)として受け入れつつ、現状において住民が享受している生活水準・文化水準を損なわないレベルで維持していくための経済・社会モデルを構想する研究を前年度に引き続いて推進した。2019年度の具体的研究は、その一つとして古民家・町家再生を取り上げた。これまでにも学術的に価値の高い古民家・町家は、国等の指定を受けて文化財として保存されたり、行政が買い取って保存されたりしてきた。しかしそこまでの学術的価値がないと評価された建物の管理処分は、所有者の自由意志に委ねられ、必要性が認められなくなると取り壊されるしかなかった。しかし新常態を迎えた地域社会では、従来型の機能本位の視点から建物を評価するだけでなく、存在そのものを評価する必要性が生まれている。地域の土地とそこに古くからある建物や建物群が一体となった風景、また建物に接することで回想できる建物内で繰り広げられてきた当時の商いや暮らし・文化行事など、建物が存在することによって作り出せれる風景や記憶は当該地域のアイデンティティーであって地域住民にとってかけがえのないものである。それだけにとどまらない。このような地方に残された日常の日本的情景が観光資源となって、非日常を好む海外旅行客の次の旅行ターゲットとなりつつある。いわば見えざる資産とも言える地域の古民家・町家を再評価して、現在に至るまで残された古民家・町家に現代的味付けを加えて建物の寿命を伸ばそうとする古民家・再生の試みは、新常態の一事例として位置付けることができる。このような視点から、2019年度は国内では主に大阪南部の古民家・町家再生事例、また同様の動きが発生している東アジアでは、台湾・台中市の古民家・町家再生の事例研究を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
低成長下における地域が迎えた状況を新常態と定義するに際して、新常態の理論的研究に遅れがある。新常態が果たして実現可能な独立したモデルであるのか、あるいは経済成長のプロセスの一局面を切り取ったものに過ぎず独立したモデルと言えるのかについて、なお疑問が残されている。新常態を示す具体例の一つとして、古民家・町家再生事例を示すことはできたが、新たに各地で広がる「まちごとホテル化」への動きをフォローしきれていないため、追加調査が望まれるところとなっている。このような状態の中、年度末に新型コロナ感染症が流行して現地調査等が不可能になって研究が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は次の2点を中心において研究を進める。第一は、低成長下における地域社会が迎えた状況を新常態と定義するに際して、先行研究・関連文献を調査して理論的な考察を更に深めることである。第二は、個体の古民家・町家の再生が発展した形態とも言える「まちごとホテル化」構想について、国内の実施事例を調査してその成果と課題を明らかにすることである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行によって予定していた現地調査等ができなくなり、研究を中断せざるを得なくなったため。可能な範囲で残された現地調査を実施するとともに、定常状態に関する理論的な展開に関して先行研究の調査と理論的考察を引き続き行って研究を完成させる。
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