本研究の目的は、インドネシアにおける「移住・家事労働者」の変容を、海外雇用政策および国内家事労働者の派遣形態の変化から捉えようとするものであった。最終年度である2020年度は、コロナ禍の影響で当初予定していた現地での補足調査が実施できなかったものの、本調査研究で目指していた現代インドネシアにおけるケア概念の変容を考察すべく、単著の執筆を進め、また共著として『ジェンダーと開発』と題する教科書の一部を担当した。本研究で得られた知見は以下のとおりである。 第一に、海外雇用政策の変化により家事労働者を「技能化」するプロジェクトが各省で進行した。これは、2017年成立の移住労働者保護法とも絡んで、家事労働者が担う再生産労働を料理人、ベビーシッター、掃除人等々に細分化し、受入国にはそれぞれにビザを発給してもらうことで、家事労働者の派遣をゼロにしようとする施策である。ほかにも移住家事労働経験者に、介護研修を受講させることにより、「技能化」しようとするプロジェクトも発足した。いずれも現行のスキームで派遣される家事労働者を「低技能」とみなすロジックに基づいている。 第二に、ギグ・エコノミー型の家事労働者に関する知見で、調査からは現行の家事労働者と階層が異なることが明らかとなっている。 また、2020年度はコロナ危機における国内家事労働者への影響を実態把握すべく、家事労働者アドボカシー国内ネットワーク(Jala PRT)の協力を得てアンケート調査およびインタビュー調査も実施した結果、雇用主の帰国や失業による解雇、自宅待機など経済的な打撃が明らかとなった。また公共交通機関を使って雇用主宅に移動し、密集状態となる市場で買い物をする家事労働者をウイルス・スプレッダーとみなす雇用主から、差別的な扱いを受けているナラティブが得られた。なお、こうした処遇は受入国における家事労働者の経験と共通している。
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