研究課題/領域番号 |
17K02070
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
辻上 奈美江 上智大学, 総合グローバル学部, 准教授 (30584031)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | ジェンダー / 湾岸アラブ諸国 / 女性 / 消費 / 起業 / 家父長制 |
研究実績の概要 |
本研究は、消費主義社会と化した湾岸アラブ諸国の女性の消費行動と、女性を対象とした商業活動の展開および女性の家計への経済的貢献を調べることで、従来とは異なる視点からジェンダーの権力関係を明らかにしようとするものである。湾岸アラブ諸国では近年、女性の教育レベルと労働参加率の向上と連動して、女性が消費者として存在感を高めている。また、このような女性の購買力に着目し、女性起業家による中・小規模ビジネスが増加しているのだが、背景には国民に十分な雇用機会を提供できない政府の支援も存在する。本研究では、男性が家族の扶養義務を負う男性優位の(宗教的価値観を含む)価値観の解釈と実践の変化、消費主義を促進する国家の役割といった変数にも着目する。 本研究の背景には、フェミニズム研究および女性のエンパワーメントに主眼を置く開発プログラムの多くが、女性の就労とその結果としての経済的自立を重視する傾向にある事実が挙げられる。研究・実務の両面において、女性の現金収入を重視するあまり、しばしば女性が現金を処分する権利を有するかどうかについて軽視する傾向にあったのではないだろうか。本研究では、従来のこのような研究・実務の傾向に鑑み、女性が社会の重要な消費アクターとなっているサウジアラビアを中心とする湾岸アラブ諸国における女性の消費行動と、そのような女性を対象とした女性起業家らによる商業活動の展開に着目している。 平成30年度には、ノルウェーにおいて、共通の関心を有する研究者および活動家との意見交換を行うとともに、サウジアラビアから女性起業家を招聘し、情報提供を受けた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始2年目となる平成30年度は、湾岸諸国におけるビジネスや女性起業家に関する資料収集と読解を重点的に行った。近年、当該分野の研究は、少しずつではあるが発表される論文や書籍が増えており、これらの先行研究の動向を理解・整理した。 また、アジア経済研究所が主催する「中東ファミリービジネスの構造と継承の課題」研究会の委員としての活動を通じて、湾岸アラブ諸国の女性起業家を、ファミリービジネスの継承の観点から、より立体的かつ多角的に見つめ直す機会を得た。同研究会は今後も継続予定であるが、中間成果を『中東ファミリービジネスの構造と継承の課題」の一章としてまとめることができた。 平成30年度は、研究代表者は湾岸アラブ諸国において現地調査を実施しなかったが、ノルウェーにおいて、世界でも数少ない、当該分野の研究者との意見交換を行うことができたと同時に、同地に拠点を置く活動家との意見交換において研究上、重要な示唆を得ることができた。さらに、研究代表者がこれまで重点的に観察・意見交換してきたサウジ人女性起業家を日本に招聘し、研究上、重要な情報の提供を受けることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究が主な対象としているサウジアラビアでは、2016 年から「ビジョン2030」に沿った経済社会転換のための政策が開始した。それに伴うガソリンや光熱費への補助金の削減、付加価値税の導入などにより、国民には経済的な負担が増える結果となっている。このことが消費を抑制し、女性起業家らのなかには、事業継続が困難になっている人もいる。研究当初からは想像できなかった不景気の到来により、再考すべき点が生じている。最終年度となる平成31年度には、当初、英語での研究成果の発表を検討していたが、引き続き詳しく状況を見極める必要が生じてきている。このため、最終年度も引き続き、経済状況を詳しく観察しながら、英語での成果発表については、少し時期を後にずらしていくことを検討している。他方で、海外出版社との話し合いの機会を持つなど、将来的な出版の可能性は引き続き継続する。 他方で、近年、少しずつ湾岸アラブ諸国におけるビジネスに関する研究書や論文は増加しており、引き続き文献収集と読み込みを進める。また、これまでの研究血クォアウトリーチ活動を通じて発表していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、研究代表者が参加する他の科研費の分担金や学内の研究費を連動させながら本研究を実施することができたため、未使用金が発生した。次年度は、引き続き書籍や論文を購入する費用に加えて、海外からの研究者の招聘予定があるほか、研究代表者が現地調査を予定しており、これらの旅費で本年度未使用金を使用する予定である。
|