研究課題/領域番号 |
17K02071
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
洪 賢秀 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (70313400)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 東アジア / 出生前遺伝学的検査 / DNA鑑定 / ジェンダー / 生命倫理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、東アジアにおける遺伝子関連検査の受容過程に着目し、出生前遺伝学的検査及びDNA鑑定の利活用実態を明らかにすることである。 今年度は、日本・韓国・台湾で遺伝子関連検査(出生前遺伝学的検査及びDNA鑑定)に関する規制状況について文献研究を通して各社会での諸課題を検討し、来年度の調査に向けて準備を行った。 まず、出生前遺伝学的検査は、日本では2013年4月に臨床研究として導入され、遺伝カウンセリングの構築が行われて、一般診療へ移行し施設増加などへの方向付けが新たに行われた。韓国や台湾では、出生前遺伝学的検査は、NGS(Next Generation Sequencing)が導入され、サービスが拡大している。台湾では、日本のような社会を巻き込んだ出生前遺伝学的検査の是非や障がいをもつ子どもと共に生きる社会のあり方などについての議論は見当たらなかった。ただ、韓国では1970年代に制定された母子保護法における人工妊娠中絶の許容範囲をめぐって長い議論が続いている。とりわけ、本法14条の「1. 本人または配偶者が大統領令で定める優生学的または遺伝学的精神障碍や身体疾患がある場合」は、あいまいさや矛盾を孕んでおり、現に拡大している出生前遺伝学的検査についてようやく議論が始まろうとしている。 各国で出生前遺伝学的検査の普及に拍車がかかっているなか、一般市民が抱えている諸課題とは何かを明らかにするための調査準備を行った。その対象者を選定するために東京都内と韓国ソウル市内にある両親学級または母親学級の実体を調べるとともに、有識者から助言を得た。次に、DNA鑑定の利活用実態についての調査のために、日本及び韓国のDNA鑑定を実施している会社をリストアップした。来年度は、台湾のDNA鑑定会社のリストアップを加え、インタビュー調査を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、日本・韓国・台湾で遺伝子関連検査に関する規制状況について文献研究を踏まえて、来年度の研究調査の準備のために、ステークホルダーのインタビュー調査をすることであった。まず、遺伝学的出生前診断に関する質問紙調査およびインタビュー調査を対象に、Pubmedでキーワード検索をし、関連論文414件を抽出した。これらを対象疾患別、国別、研究方法別で分類し、レビューした。対象疾患別にみると、特定疾患に限らないものが33%、染色体数的異常が15%、NIPTが10%、膵嚢胞線維症が8%、ハンチントン病、鎌状赤血球症が各4%などであり、NIPTを用いた遺伝学的検査が研究テーマとして注目されていた。当該研究が実施された対象国は、アメリカが10%、イギリスが10%と、国別のなかでは最も盛んに研究が行われており、日本は2%、中国が2%、台湾や韓国の研究は皆無であった。調査方法の分類に基づいた動向では、定量研究が72%と最も多くを占めており、定性研究が16%混合研究が5%、レビューや観察研究を含めたその他の研究が6%となっていた。 また、DNA親子鑑定に関する倫理的な議論に関する論説、質問紙調査、インタビュー調査を対象に、Pubmedでキーワード検索をし、370件(2017年8月14日現在)を抽出した。これらをレビューした結果、検査の質を担保すること、消費者直販型の遺伝子検査(DTC: Direct-to-Consumer)の多くを親子鑑定が占めていること、親子鑑定の実施が増大していることなどが明らかになった。 以上のような先行研究レビューから東アジアにおける遺伝子関連検査の実態や、調査対象者の選定のあり方が重要な課題として浮上した。加えて、来年度の調査にむけて、日本・韓国の有識者から調査実施についての助言・指導を得た。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の研究は、今年度の先行研究や調査対象者リストなどを参考に、次の2つの調査を実施する予定であり、そのためのインタビューガイドや質問紙を作成する。 ①出生前遺伝学的検査サービスの提供・利用における実態調査:日本・韓国・台湾の妊産婦を対象に、各社会における出生前遺伝学的検査のサービス利用、とくにNIPTに関する意識についてインタビュー調査を実施する。また、日本・韓国・台湾において出生前遺伝学的検査サービスの提供する側を対象にインタビュー調査を実施する。 ②DNA鑑定のサービス提供・利用における実態調査:日本と韓国のDNA鑑定のサービス提供側を対象に、提供実態などについてインタビュー調査を実施する。 これらの調査結果をまとめ、課題を抽出する。また次年度の調査にむけて補足資料や追加調査の準備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)台湾におけるインタビュー調査に必要な旅費に加えて、通訳、インタビューデータのテープ起こし、翻訳費用が必要になった。
(使用計画)8月から9月に日本・韓国・台湾の出生前遺伝学的検査サービスの提供・利用における実態調査,1月3月に日本・韓国のDNA鑑定のサービス提供・利用における実態調査を予定している。そのため、旅費および日本語・韓国語のテープ起こし代、中国語の通訳・翻訳・テープ起こし代に使用予定である。
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