研究課題/領域番号 |
17K02075
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
池田 恵子 静岡大学, 教育学部, 教授 (60324323)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地域防災 / ジェンダー / 多様性 / 地域組織 / 自主防災組織 / 災害対応 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、東海地震・南海トラフ巨大地震で甚大な被害の発生が想定されている静岡県を対象に、末端の地域コミュニティにおいて防災体制を担う自主防災組織に女性が意思決定を担える立場で参加し、ジェンダーの視点が受容されて具体的な対策が定着しやすくなる条件を明らかにすることである。 研究の初年度は、まず地域自治組織、自主防災組織、消防団、女性防火クラブ、災害ボランティア組織、など地域で防災活動を担う組織に関する先行研究と、近年の大災害におけるこれら組織の機能と経験に関する先行研究をレビューした。そして地域における共助の主体について、分析単位とすべき地域社会の範囲、調査対象に含めるべき地域自治組織やテーマ型市民活動団体などの概念を規定した。また、熊本地震(2016年)や九州北部豪雨(2017年)など直近の災害に関して支援団体・専門職団体や政府・地方自治体が発行した報告書類を収集し、ジェンダー別の被害状況や災害対応へのジェンダーの視点の有無について、東日本大震災における状況と比較して再整理した。車中泊・テント泊や危険な状態にある自宅などでの避難におけるジェンダー課題などの課題が明確になり、視野に入れるべき課題が把握された。加えて、静岡市においてセクシュアル・マイノリティや発達障害者・児の自助団体にも災害時の不安や備えに関する聞き取りを行った。 これらの作業を経て調査項目を再検討し、半構造化インタビューの質問リスト案を作成した。予備調査として、以下の地域で活動した(している)女性グループに対して、防災・災害対応の活動のインタビューを行った。静岡県内では、静岡市、掛川市、駿東郡長泉町、湖西市、静岡県外では、仙台市と朝倉市(九州北部豪雨の被災地)である。これら予備調査の結果に基づき、最終的に調査項目を確定した。 また調査対象地域の基礎的な社会経済データを集め、地域プロファイルを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究の収集と整理・基礎的概念の検討からスタートして、聴き取り調査を行う地域・自主防災組織の特定、調査項目の検討、調査対象地域の概要の把握は当初の計画通り完了した。当初予定していなかった活動として、熊本地震や九州北部豪雨災害など直近の大災害におけるジェンダーの視点による被害状況と災害対応の進展を把握し、加えて、静岡市において、セクシュアル・マイノリティや発達障害者・児の自助団体にも、災害時の不安や現状での備えに関する聞き取りを行った。あまり防災や災害対応に関する情報がないが、脆弱性の高い集団の課題についても把握することができた。 これらの調査は、当初の研究計画になかったことであるが、直近の災害におけるジェンダー課題と災害対応の課題を把握し、現状では防災や災害対応に関する情報が少ないが、脆弱性の高い集団の課題についても理解することで、可能なかぎり、多様な角度で課題をとらえ、脆弱性の交差する状況を理解したうえで、質問内容を確定できた。静岡県内外(場所は上記研究実績の概要に記載)で、防災や災害対応を担う女性たちへのプレテストを兼ねた活動の聞き取りを行ったうえで、調査項目を最終的に確定できたことは、来年度に行う本格的なインタビュー調査の土台となった。 本格的なフィールド調査は平成30年度から実施することになるが、今年度上記のように準備作業に時間をかけて充実させたため、平成30年度のフィールド調査はよりスムースに実施できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、データ収集に専念する。静岡県内外の先進的自主防災組織を対象に、参加者男女の概要、活動の内容と導入過程、関与する人々や地域組織・民間団体などを聴き取り調査と参与観察から明らかにする(「自治会単独依存型」)。県内 7 自主防災組織(静岡市、掛川市 2 地域、菊川市、湖西市、駿東郡長泉町、浜松市)において実施する。加えて、「防災まちづくり型」自主防災組織の先進事例として仙台市および神戸市において調査を実施する。地域・自主防災組織に参加する男女、関係団体の関係者を訪問し、半構造化された調査項目リストを用いて聴き取り調査を行う。可能なかぎり、活動の参与観察も行う。聴き取り調査の音声を書き起こし、整理する。一時的な調査結果を、学会や研究会の場で報告し、指揮者の助言を仰ぎ、そのうえでデータ分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、本格的に地域防災活動のフィールド調査を開始する前に、当初の予定になかった下記の作業も行った。①二次資料による近年の大災害(2016年の熊本地震と2017年の九州北部豪雨災害)におけるジェンダーの視点による被災状況と災害対応の実態を把握、②これら直近の災害で女性支援にあたった人々への聞き取り、③セクシャルマイノリティ―などこれまで防災の議論において取り上げられることが少なかった集団の視点による防災・災害対応のニーズ把握、④非構造化インタビューの質問リストのプレテスト、である。これらの作業を行ったため、災害時のジェンダー課題をより広く、実態に即して把握し直すことができた。 上記のとおり準備作業に時間をかけて充実させたため、かえって平成30年度のフィールド調査は当初計画よりスムースに実施できると考えている。平成30年度には当初予定していた調査に加え、平成29年度に行う予定だったフィールド調査も行うため当初使用すると計画していたより余計に調査旅費が必要となる。平成29年度の残額をそれに充てる予定である。
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