本研究の目的は、東海地震・南海トラフ巨大地震で甚大な被害の発生が想定されている静岡県を主な対象に、末端の地域コミュニティにおいて防災体制を担う自主防災組織に女性が意思決定を担える立場で参加し、ジェンダーの視点が受容されて具体的な対策が定着しやすくなる条件を明らかにすること、そして得られた知見を地域コミュニティにおける防災の実践に反映することである。 地域コミュニティの防災体制において女性が先駆的な役割を担っている地域を選定し、地域防災に関するキーインフォーマントインタビューと参与観察を行った。地域防災体制のタイプを、①自主防災組織と町内会・自治会など地域組織が一致する「自治会単独依存型」、②多様なテーマ型市民活動団体や福祉事業所などが地域組織と連携した「防災まちづくり型」に分け、併せて、③自主防災組織の基盤組織が明確ではない地域における災害対応の事例とも比較検討した。また調査対象地域の基礎的な社会経済データから地域プロファイルを作成し、それらと関連付けて、地域防災体制のタイプごとに、女性の参画が促進され、ジェンダーの視点が受容されて具体的な対策が定着しやすくなる条件を考察した。 2019年度は、静岡県内において参与観察を続けて補足的なデータ収集を行った。また災害への備えと災害直後の対応だけではなく、中長期的な復興期も視野に入れるため、宮城県・福島県・岩手県において東日本大震災からの復興への女性の参画に関する聞き取り調査を追加で行った。考察の結果を日本社会学会震災問題研究交流会などで報告し、識者の助言を得て考察を進めた。静岡県を中心とした東海地域において、自治会町内会単独依存型である地域防災体制の中でも、女性が意思決定に参画することによって地域全体としての被害縮小を図れるよう、課題を整理した。
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