本研究は、北朝鮮で制作・放映されたドラマを通して、北朝鮮社会のジェンダーを考察することである。この間、映像の収集、韓国における研究史の整理などを行いつつ、本年は二つの学会で国内外の研究者とパネル発表を行うことにし、研究を行った。 1)AAS in Kobe(8月末~9月初め)。Visual Representations of the Persistent Cold War in the Korean Peninsulaというパネルで、Unification Narrative and Gender in the North Korean Film “Birds”の発表を行うことになり、研究した。筆者の報告は、初めての日朝合作映画「バード」(1992)を、①跡継ぎと血筋、②性役割、③統一ナラティブの三つの側面から分析するものである。この映画が韓国で開かれた第1回平昌国際平和映画祭(2019)の開幕作として上映されたこともあり、韓国での統一言説におけるジェンダー分析の必要性を主張した。残念ながら、他のパネル参加者たちの意向でパネルをキャンセルせざるをえなくなった。 2)ジェンダー史学会でのパネル「東アジアにおけるコリアン社会のジェンダー~映像を手がかりに~」を企画した。本パネルは、延辺、北朝鮮、韓国でそれぞれ制作された映像作品を手がかりにして、東アジア地域の異なるコリアン社会におけるジェンダーを分析し、その相違点や共通点及び特徴などを考察する試みである。筆者は「北朝鮮映画『わが家の物語』(2016)にみる家父長制国家とジェンダー」を発表した。この報告では、18歳の主人公が孤児たちの面倒を見て、「処女かあさん」とたたえられる内容が、社会主義大家庭論を強調して社会統合を図ろうとする現政権の意図の下で推奨されていること、国家家父長的性質を強めていることなどについて指摘した。
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