研究課題/領域番号 |
17K02086
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大串 尚代 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (70327683)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 少女文化 / 少女マンガ / 民主化政策 / 視覚芸術 / 翻訳史 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、前年度に引き続き、日本の児童文学・少女小説とされる文学作品の中に、アメリカをはじめとする海外表象がどのように現れているかを中心に調査を行った。また、日本の少女マンガ家が、海外の映画・文学作品を翻案し、マンガ作品に仕上げている例もあり(例えばロバート・ネイサンの小説『ジェニーの肖像』や、サミュエル・テイラー原作でビリー・ワイルダーによって映画化された『サブリナ』など)をどのようにアレンジして日本の読者にむけて作品を発表しているのかについて考察を重ねた。類似の例についてはいまだ調査中であるが、これらの翻案は、たとえばルイザ・メイ・オルコットのLittle Womenの本邦初の翻訳である『小婦人』との比較で考えられるのではないかと考えている。 昨年度から続く本研究の成果の一端は、ブラジル・サンパウロのカンピーナス州立大学で行われた日本研究学会において招待講演として発表し、また中国・北京の北京外国語大学の招待講演において、日本の少女文化とアメリカ文学との歴史的関係について発表した。 さらに、日本の女性文学と少女マンガの関わりについては、現代作家であり、デビュー当時から「少女マンガのような小説」という評価を受けてきた吉本ばなな作品のどこが「少女マンガ的」なのか、何をもって「少女マンガ的」という評価が下されるのかについての論考を発表し、70年代から80年代にかけての「少女マンガ」が表そうと腐心してきた「雰囲気」についての考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はこれまで収集した資料を再度見直し、現在手元にある資料からなにが考察できるかを検討する作業を行った。すでに入手した資料で考察を行えると判断した内容および今後の資料収集の方法や方向性を再検討したところ、より広範囲な資料収集の必要性はあるものの、現段階で資料を取りまとめ論文執筆に取りかかることが可能な部分もあることがわかり、概ね順調に研究が進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度については、これまでの資料をもとに執筆を中心としながら、国内外で必要な資料収集を行うことを予定している。前年度にはあらたな資料収集というよりも、これまで収集した資料の整理に集中したが、その上で戦後の民主化における検閲のGHQの検閲とその方向性の問題、および明治・大正期の日本の少女雑誌に掲載された外国に関する資料をいま少し補強したいと考えており、アメリカ議会図書館および、国立国会図書館、また少女雑誌のすぐれた蔵書を持つ熊本県菊池郡にある菊陽町図書館でのリサーチを行いたいと考えている。 本年はこれまでの研究の成果を論文もしくは単行本のかたちで発表することを目標とし、本研究に対するフィードバックを積極的に受け取り、さらなる研究の糧にしたいと考えている。また、分野横断的なワークショップやシンポジウムなどの企画の可能性も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた理由については以下のとおりである。平成30年度は、これまで収集した資料がかなり大量になってきたことをうけ、資料の活用について再検討を加えることを最優先とし、資料収集活動についてはいったん小休止をすることとした。そのため、渡航を必要とする資料収集について計画の見直しを行った。資料収集にあてる予定であった時間を利用し、これまでの資料をいかした講演を行い、単著にむけての執筆活動を始めることが可能となった。そのため旅費をはじめとする補助を次年度で活用したく、このような状況となったことをご理解いただければ幸いである。
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