研究課題/領域番号 |
17K02086
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大串 尚代 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (70327683)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 文学とジェンダー / 少女マンガ / アメリカ文学 / 感傷性 / 孤児 |
研究実績の概要 |
2021年度は、前年度後半より取りかかっていた本研究を単行本にまとめる作業を継続した。これまで執筆した論文を見直し、また論文執筆にあたって使用した資料を再度確認する作業をおこなった。その結果10月1日付で単著『立ちどまらない少女たちーー<少女マンガ>的想像力の行方』を松柏社より刊行した。 本書を刊行するにあたり、これまでの研究成果を見直しながら最終確認をしていたところ、少女の自立というテーマと19世紀アメリカ女性文学に頻繁にみられる感傷性との関係性に関する議論を深めるべきであることを認識した。そのため、本年度の後半には、19世紀アメリカ女性文学の中でも、その感傷性でよく知られる二作品、すなわちマリア・カミンズの『点灯夫』(1854年)およびスーザン・ウォーナー『広い、広い世界』(1850年)に着目し、そこにみられる孤児(日本の少女マンガにも見られるモチーフ)と感傷性、移動性について考察し、日本英文学会関東支部第20回大会シンポジウム1「十九世紀アメリカ文学における移動・移民」において発表した。 アメリカ女性文学に見られる感傷性は、それがゆえに女性文学がアメリカ文学史からは無視されてきた要因のひとつでもあった。日本で翻訳出版され、いまも読み継がれているジーン・ウェブスターの『あしながおじさん』(1912年)は、現在のアメリカでそれほど知られていない。本年度の後半では、アメリカ文学史における女性文学の意義について、また文学の評価と性差について、論考「文学とジェンダー」にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的としていた単著刊行を果たすことができた点では、計画通り進んでいるといえる。しかしながら、昨今の新型コロナ感染症の影響もあり、本来であれば行うことができた研究調査については、十分に果たせたとはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、日本の少女マンガにおけるアメリカ文学をはじめとしたアメリカ文化受容を考察したものであるが、今後の方向性としては特にアメリカ女性文学に関するより深い考察が必要であると考えている。なぜ地理的にも遠く、文化的にも異なる日本の少女たちに対して、アメリカ女性文学が受け入れられたのか。そのひとつの要因として、感傷性(センチメンタリティ)について立ち戻り、感情の文化的側面を検討する。 その際、ジューン・ハワードの「感傷とは何か」、シャーリー・サミュエルズ編『感傷の文化』などの20世紀末の研究成果に立ち戻り、その後21世紀におけるシアン・ンガイ、スティーヴ・パイル、ルース・レイズらの研究をふまえつつ、感傷性について従来の「お涙頂戴」的な認識とはことなる意義の可能性を探究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症により、海外資料調査が困難な状況となった。現地での調査が困難になった分は、図書での調査を行ったため、研究費が予定よりもかからなかったことが理由である。2022年度は、引き続き図書や雑誌論文の調査を進めることを予定しており、研究費をこれにあてる。
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