研究課題/領域番号 |
17K02090
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
古沢 希代子 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (80308296)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 気候変動 / 防災 / 減災 / レジリエンス / 食料安全保障 / 社会開発 / エンパワーメント / ジェンダー |
研究実績の概要 |
2015/2016年のエルニーニョと2017/2018年のラニーニャによる影響を把握するため、2017年8-9月と2018年3-4月に、地理的条件の異なるいくつかの地域(西部の平野部/山間部、中北部の山間部コーヒー生産地域、中南部及び東南部の平野部)で農水省職員と農民への聞き取り調査を開始した。また、全国に40の観測所を持つ農水省研究統計地理情報部農業気象課に協力を要請し、気象データへのアクセスを開始した。 現地調査の結果、2015/2016年のエルニーニョの影響は一様でなく、雨期の遅れと降雨の減少のみならず、不規則な降雨や降雨の持続が発生し、各地の農業と畜産に深刻な影響を与えていたこと、一方、2017/18年のラニーニャでは2-3月の大雨・大風で崖崩れ、倒木、川の増水による道路・灌漑施設・農地等の損壊が発生したことが明らかになった。 あわせて、女性の生産活動や生活への影響を知るべく4つの地域で女性農民とグループ討論を行なった。エルニーニョの年、雨期の降雨が極めて少なくトウモロコシがほぼ全滅したマヌファヒ県ベタノでは、6年ぶりに灌漑施設が復旧したが、大量のネズミが田畑を襲い作物を荒らした。また、時ならぬ7月の大雨で灌漑施設の堰や護岸が損傷した。ボボナロ県の山村サブライでは10月の降雨で作付けしたトウモロコシが11月に雨が止まったため全滅した。同県マリアナでは雨期米の収穫時期と乾季に雨が続き、稲、トウモロコシ、野菜に影響が出た。コーヒー生産地マウビシでは2016年の長雨でコーヒーが結実せず、蜂蜜採取など女性によるコーヒー以外の作物生産も降雨に影響されるという。生活面では、すべての地域で飲料水の確保が重要課題として取り組まれていた。一方、2018年の大雨は稲作には好条件だが、すでに状態の悪い大小の灌漑施設への影響が懸念されている。背景に施設の維持管理という構造的問題が存在する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マヌファヒ県ベタノとボボナロ県マリアナでは前回及び前々回の科研費研究より定点観測を続けている。東ティモール農水省の各部局には本調査への協力をいただいている。しかし、各観測所のレベルのデータが一般公開されていないことは障害である。2回のフィールド調査は、災害多発による道路事情がもっとも深刻な時期とかさならなかったが、崖崩れの影響は随所に残っており、本研究にとっては必要な知見であるものの、移動は容易ではなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、乾期と雨期の両方をカバーできるような時期に現地に滞在し、調査を継続する。初年度では概況の把握を行なったが、今年度はよりシステマティックな情報の収集を行い、本研究のフォーカスエリアを決定する。また、気候変動による農業生産、生活への影響、ジェンダーニーズについての調査を継続するとともに、レジリエンスの構築という観点から行政やドナーの態勢を確認し、草の根の人々で実行可能な行動と、気象観測やインフラの維持管理及び復旧を含め行政当局の態勢強化が必要な分野、そして、両者の連携強化が必須である取り組みに関して考察する。 レジリエンス構築の手段としては、長期的な課題と短期的な課題が存在すると考えられる。長期的な目標としては、積年の課題として、道路、水道、灌漑施設などインフラに関して安定的な維持管理のしくみを構築することである。インフラにはコミュニティーで完結するものとネットワークが大規模なものがある。今年度はまず、短期的な(緊急の)対応として、エルニーニョの年に農水省が示した対策への反応と効果について調査する。また、すでにドナーの関与で気候変動と災害に対するレジリエンス強化のプロジェクトが走り始めたディリ・アイレウ・アイナロ県(首都から中南部への幹線道路周辺地域)について、その内容と女性たちがプロジェクトの計画と実施にどのように関与しているか調査を行う。あわせて、食料と生活の安全保障及びジェンダーニーズの充足とジェンダー平等の推進を目指した社会開発を行うという観点から気候変動と災害の問題に取り組みを開始した東ティモールのNGOや女性団体にアプローチし、東ティモール人のリサーチャーを日本に招聘して研究交流を行う可能性をさぐる。来年度は、東ティモールで開催が予定されている東ティモール学会大会において本研究の知見を報告することを目指す。
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