本研究の目的は、気候変動へのレジリエンス構築の方策を建国まもない東ティモールで女性農民の立場から考察することである。現地調査はコロナによる中断を経て2022年8-9月に終了した。主な調査地は、独立後に灌漑施設が再建されたボボナロ県マリアナ地区とマヌファヒ県ベタノ地区であり、女性農民の中核的ニーズである農業用水と生活用水の確保に着目し、レジリエンスに関連する水利組織や行政との関わりを探るため、女性農民、水利組合、農水省県事務所との会合を重ねた。 2015/16年のエルニーニョでは降雨量の減少と降雨時期の変化が両地区の農業に打撃を与え、2017/18年のラニーニャでは豪雨により灌漑施設が損傷した。両地区の灌漑施設は設計や維持管理の面で問題を抱えていたが、水利組合は組織力も行政との交渉能力も弱かった。女性理事は誕生したが活動の余地は限られ、女性農民は末端・近隣での水路の維持管理、共同水源の保全、共同井戸の設置で対応していた。 さらにコロナ下の2021年4月、ハリケーンによる豪雨災害が発生し、両地区の灌漑施設に大きな被害が出た。JICAはマリアナ地区の施設の復旧へ支援を決めたが、水利組合の再編で理事会から女性の姿が消えた。また、ベタノ地区では復旧に数年を要するとみた地元が、水田の畑地化と収穫後の作物の茎や葉で土地を被覆し耕起をしない農法の実践に舵を切った。水利組合の元女性理事は同農法の推進者であるが、地元は長年設計の変更を要求しており、復旧をめぐる政府との協議には女性農民の声も反映される必要がある。 本調査の一環として、農業と複合経営を行う女性漁民から話を聞いたところ、禁猟区の運営や水源地との係争に関して女性たちは十分に参画していないことが窺えた。本研究は、女性農民は多くの労働を担い生産活動に貢献しているが、水利関連の意思決定への参画というエンパワメントがレジリエンスを高めると結論する。
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