最終年度となる2021年度には、本研究の成果として編著書『クィア・シネマ・スタディーズ』(晃洋書房)を刊行し、クィア・LGBT映画および映画祭とアイデンティティ、コミュニティの関係について分析、考察を行った。また、論考「話者の偏在:『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』における移民/クィアのコミュニティ」(『ユリイカ』2021年12月号)では、アメリカの映画作家であるフレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画を取り上げた。ワイズマン作品を通して、ニューヨーク市内で最大のLGBTQコミュニティと言われるジャクソンハイツにおける移民とセクシュアリティの交差のあり方を分析し、映画というメディアがクィア・コミュニティの生成をいかに描き出すかを検証した。 2021年6月に開催された第55回アメリカ学会では、「クィア・シネマにおける「家族」の再創造」と題した研究発表を行い、LGBTQコミュニティと家族との関係について分析した。9月に登壇した大妻女子大学のシンポジウム「LGBTQ映画と社会:日本の研究と台湾への接近の可能性」では、「クィア・シネマのアナクロニズムとトランスナショナリティ」のタイトルで、映画文化を通じたアイデンティティとコミュニティ形成について考察した。10月の京都精華大学主催公開講座では、クィア理論における人種とセクシュアリティの交差性を強調する有色人種の批判理論について説明を行った。 最終年度には、国内外のクィア・LGBT映画祭関係者、アクティヴィストなどを招いて対面による国際シンポジウムを開催し、議論を深める予定であったが、コロナ禍の影響を断念せざるをえず、従って、国際シンポジウムの成果を報告書にまとめることも叶わなかった。その一方で、本研究の成果を学会や講演会などで積極的に発信し、クィア・LGBT映画祭の重要性についてその認知度を高める貢献ができたのではないかと考えている。
|