研究課題/領域番号 |
17K02097
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
熊本 理抄 近畿大学, 人権問題研究所, 准教授 (80351576)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カースト / 世系 / 複合差別/交差性 / 差別論 / エンパワメント / 主体性 / マイノリティ女性 / 社会運動 |
研究実績の概要 |
今年度は、つぎの研究を実施した。第1に、複数の国際シンポジウムにおいて、国連、米国、南アジア、太平洋地域の研究者との討議を行った。4月には、「世系に基づく差別撤廃のための国際シンポジウム」を国連と市民社会の共催のもと開催し、世系に基づく差別に関する国連ガイダンス・ツールを基に、市民社会及び国連の役割について討議した。7月には、SDGs(持続可能な開発目標)のプロセスにおいて、ダリットや部落民など、マイノリティの包摂と参加を実現するための課題と方向性を討議した。9月の「第4回世界ダリット会議」では、植民地主義、レイシズム、階級主義、ヒンドゥー至上主義、白人至上主義、社会的排除といった概念の、地域を超えた共通性を議論した。ダリット女性および被差別部落女性の状況を決定づけている条件解明への複合差別アプローチの可能性を理論的に基礎づけるうえで、各地研究者との連携ならびに協議を進展することができた。 第2に、東北の被差別部落の歴史、実態についての視察に加えて、関係者の聞き取りを行った。またネパールにおいて、複合差別アプローチによる問題解決の実践にコミュニティ・ベースで参加している住民ならびに活動家へのインタビューを実施した。複合差別アプローチの実践への参加を通じたエンパワメントのプロセスを明らかにすることを目的とした本研究において意義ある調査を実施することができた。 第3に、カーストとジェンダーの複合差別/交差性概念に基づいた議論と実践を国連レベルで加速化させた市民社会のとりくみを整理し研究紀要に投稿した。また、複数の女性団体を訪問し、部落女性の運動と女性運動の連帯を検証するため、文献収集/インタビューを実施した。さらに、在日朝鮮人女性の社会運動や複合差別の議論に学ぶべく、研究会に参加した。実践と理論の統合化をすすめるうえで不可欠な研究を遂行することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国連レベル、国際地域レベル、国内レベル、コミュニティレベルにおける、先行研究および資料の検討、インタビュー調査の実施、国連専門家、住民当事者、社会活動家、研究者との国際的なネットワーク構築が順調に進んでいる。このネットワークにより、複数の国際シンポジウムを開催することができ、複合差別の理論・実態・実践に関する研究を各レベルで順調に進めることができた。また、世系およびカーストに基づく差別を研究する米国の研究者との連携により、アフリカ、南アジア、日本、欧米といった地域に存在する世系およびカーストに基づく差別に関して、差別構造そのものの分析、差別を生み出す社会構造と社会関係の分析について、国際的な比較研究を進めるべく、次の課題を明確化することができた。加えて、複合差別アプローチによる課題解決の実践に参加している住民や活動家へのインタビュー調査を実施できたことにより、エンパワメントのプロセス分析における課題を共有することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、つぎの研究を推進する。第1に、部落女性の社会運動と主体性の関連について研究実績をまとめ出版する。 第2に、南アジア、アフリカ、ヨーロッパ、米国での研究実績、研究方法論、人的ネットワークを有している研究者との、intersectionalityの視角と運動論的視角を踏まえた国際共同研究に着手する。世系及びカーストに基づく差別の影響を受けているマイノリティ集団及びそのコミュニティに対する政策策定に関する理解と協議を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に実施したネパール調査の出張経費が次年度繰り越しの支出となったため。
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備考 |
2018年9月に開催された「第4回世界ダリット会議」にて、「日本とインドにおけるジェンダー問題」と題し、研究成果を発表した。 2019年1月に開催された「部落解放・人権徳島地方研究集会」にて、「複合差別/差別の交差性―国連・国際社会におけるとりくみ」と題し、研究成果を発表した。 2019年1月に開催された「部落解放論研究会」にて、「部落女性の主体性形成と複合差別」と題し、研究成果を発表した。
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