今年度に実施した研究は主に以下の三点である。第一に、インターセクショナリティのアプローチから研究あるいは実践に取り組んでいる、インド、ネパール、バングラディシュの関係者と協議を重ねた。第二に、日本におけるさまざまなマイノリティグループの課題解決に際して、インターセクショナリティのアプローチに基づいた実態把握と理論構築の有効性および限界に関する知見を得た。第三に、多岐にわたるテーマのもとで、米国の研究者ならびに活動家との議論に参加し、インターセクショナリティに関する近年の研究と実践の動向を共有した。 上記により得た研究成果の意義は以下の二点である。第一に、ダリット女性と部落女性が被る抑圧を決定づけている条件のからみあい、それらを位置づける社会的権力関係を解明するにあたり、性、人種、階級といった要因の共通性と相違性を明らかにした。またエンパワメントにとって重要となる連帯について、その可能性と困難性をダリット女性と確認してきた。それら協議を踏まえて、理論と実践の統合化に向けた今後の国際的かつ学際的な研究計画ならびに運動方針を策定できた点は、研究と実践の発展にとって意義がある。 第二に、インターセクショナルな抑圧を成立させているさまざまな条件と社会的権力関係について、米国の理論と実践をダリット女性および部落女性の主体性形成に適応するにあたり、その有効性と困難性を個別具体な事例および概念から検討することができた。米国あるいは南アジアを拠点とする研究者ならびに活動家とのネットワークを構築し、さらなる共同研究と共同運動の具体的方向性を協議した。ダリット女性および部落女性をめぐる複合差別とエンパワメントに関する国際的・学際的な比較研究を進めることができた点は重要である。
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