研究課題/領域番号 |
17K02110
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
野村 律夫 島根大学, 教育学部, 特任教授 (30144687)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 観光資源 / 自然遺産 / 地質変動 / 島根半島 / 出雲国風土記 / 文理融合 |
研究実績の概要 |
出雲国風土記に「杵築の三崎」とよばれた島根半島西部の山地は,急崖をなす地形のため,層序学的検討や地質構造発達史が十分に解明されていなかった。一方で,島根半島の地形形成に深く関わった大社衝上断層や火山噴出物が厚く分布し,自然景観に恵まれた地域となっている。そのため今年度は,この地域の観光資源としての自然景観の形成を地質学的に明らかにすることを目的として,大社湾に面する約8kmにわたる海岸の露頭を調査した。 この地域に分布する地層は,島根半島の標準層序である成相寺層として扱われてきた。しかし,有孔虫による生層序学的検討を行ったところ,最上部の黒色頁岩層を除いて,有孔虫の産出が全く検出できなかった。この結果,半島西部の下部頁岩層は,無化石帯を構成していることを示すことができた。この結果から島根半島東部の法田で明らかにした古浦層と成相寺層下部の有孔虫群集(今年度に論文掲載)との対比が可能となり,日御碕海岸ルートに古浦層から成相寺層を確認することができた。また,この無化石帯を構成する頁岩層は,リップルマークや生痕化石を伴うなど深海性タービダイトの特徴を示している。半島東部での汽水的環境の形成を参照すると,日本海拡大初期の堆積環境について重要な情報を得ることができた。 平成29年度において,島根半島が日本ジオパークに認定されたことから,観光とジオパークとの連携した活動への期待が高まっている。本調査の成果は地域の観光ガイド協会で説明しており,島根半島を形成した地殻変動のダイナミックさを観光資源として利用する基盤ができたといえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の調査では,島根半島西端の大社湾に面する海岸に分布する中新統の分布を明らかにし,また地域で伝わる伝承や神話的逸話を地質学的視点で学術性の存否を問うことにあった。また,学術との整合性が認められる場合,観光への応用など地域活性化へ向けた取組に資することができる。そのような背景で,研究を進めており,海岸の地質分布やその層序学的成果が得られたこと。また,前年度から進めていた島根半島東部における中新統の研究成果を地質学雑誌に掲載し,半島西部との層序学的対比ができたことの意義は大きい。 さらに,この地域にみられる崖錐地形にみられる特殊な形状の「ごえんゴウロ」からのラドンガスの調査を行ったが,崖錐に起因するラドンの発生は確認できなかった。このことから,出雲市南部にある八雲風穴のラドン発生メカニズムに関する学術的価値が一層高まったと言える。このことについても論文化に向けた作業を行っている状況である。また成果については,地域新聞(山陰中央新報)に連載しており,ほぼ順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,前年から進めている大社―日御碕間の海岸に分布する中新統について,とくに古浦層とされる砂岩層と海岸部の頁岩層との関係やその構造地質について明らかにし,成果を論文にして公表する。また,前年度から進めていた特殊な形状を呈すごえんゴウロとよばれる崖錐については,調査の結果,崖錐による高濃度のラドンガス形成がないことが判明した。そのため,同じ崖錐にも関わらず顕著な風穴現象がみられる八雲風穴との比較研究を引き続き行い,両者の特性を明らかにする。両者を比較することで,自然荒廃が進む周囲の山間地の利用についても提案する。さらに,研究期間内に予定している大船山周辺の山地と向斜構造をなしている十六島湾周辺の山地について,堆積学的・層序学的調査を行い,出雲市平田町を中心とする古代からの伝説が生まれた自然的背景を地質学的に検討する。 大船山を含めて島根半島には,出雲国風土記にも記述されている古代の自然が現在の科学的視点と共有できる場所が多数ある。そのため,民間伝承や伝説が生まれた背景に,地域の地質構造の発達史が関わっていることを,ジオパーク活動の中で一般市民に紹介している。引き続き,地域シンポジウムや新聞等のマスコミを使って伝え,地域の観光資源としての学術的価値を高める活動を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の使用額は当初予算の86.3%であったのため,来年度に13.7%の額を平成30年度に組み込むことになった。残を出した理由は,英文論文の添削に掛かる経費を共同執筆者が負担することになったためである。30年度は,参加を希望している学会が遠隔地(北海道2回,仙台など)で開催されるため,平成30年度予算に追加したいと計画している。
|