研究課題/領域番号 |
17K02128
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
五艘 みどり 帝京大学, 経済学部, 講師 (00508608)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 農村観光 / ルーラルツーリズム / イタリア / ボルツァーノ / 南チロル / アグリツーリズモ / 和束町 / 農村女性 |
研究実績の概要 |
本研究は、農村部において観光産業を導入したことで、地域住民の生活および幸福度や満足度といった意識がどのように変化したかを、イタリアと日本における調査を通し明らかにすることを目的としている。また本研究は農村の持続的な維持の方法を明示することを将来的に目指すものである。農村の持続にはその人口を維持する上で若年女性の存在は欠かせないため、農村観光導入を経ての生活・意識の変化について、特に農村女性に焦点を当てて考察することとした。 平成29年度は、第1回目の現地調査として9月にボルツァーノのサン・ジェネジオ地区の全アグリツーリズモへインタビューを実施した。農村女性が農村観光としてのアグリツーリズモ経営へどのように関与し、アグリツーリズモの開業前後でどのように家庭・社会における役割や意識が変化したのかが明らかになった。 2月に実施した第2回目の現地調査では、アグリツーリズモ経営に熱心に関わるようになった女性がどのような人生観を持ち、その背景にはどのような家庭環境や教育があったかが明らかになった。第2回の現地調査では、南チロル農村女性連盟の代表へのインタビューにも成功し、南チロルの農村女性は1970年代から農業の強化とともに社会的立場を強くし、近年は観光業を通してその傾向を強めていることがわかった。 同時期に南チロル農民連合との南チロル全域のアグリツーリズモへ実施したインターネット調査からは、アグリツーリズモ経営の8割を農村女性を占め、開業の主張も女性の意見が強く示される傾向にあることがわかった。現在は女性の関わりとアグリツーリズモのサービスや収益との関係、開業前後で起きた満足感や幸福度などの意識の変化の関係について分析を行っている段階にある。 一連の調査結果を踏まえて、次年度以降には京都府和束町でも類似の調査を実施し比較することで、日伊の相違を明らかにすることができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度前半には、国内外の文献調査から、イタリアを対象地とする農村観光研究、幸福度研究、持続的農村研究、農村ジェンダー研究など幅広に先行研究を収集し、取りまとめ作業を現在継続している。平成29年度後半にはイタリア・トレンティーノ・アルト=アディジェ州ボルザーノ自治県での調査を次年度より前倒しして実施することとなった。理由として、調査協力機関である南チロル農民連合が協力に積極的な姿勢を見せたこと、地域住民にインタビュー支援を引き受けてくれた人が現れ、このタイミングで調査を実施するのが最良と考えたためである。 ボルツァーノ自治県における住民のインタビュー調査は9月にサン・ジェネジオ地域の全アグリツーリズモ経営農家を対象に19日間実施した。全19軒のうち13軒でインタビュー結果を得た。また南チロル農民連合の協力で、ボルツァーノ県全域のアグリツーリズモ経営農家へのアンケート調査が可能となり、連合のメーリングリストとインターネットを使用して2月に調査を実施した。県全域にある約2800のアグリツーリズモ経営農家のうち、333サンプルの有効回答を得た。一連の調査の速報の共有と、追加のインタビュー調査のため、3月に2度目の現地調査を8日間実施した。また調査の結果は一部、12月の日本観光研究学会と3月の日本地理学会で発表したが、より詳細な分析は現在取りまとめている段階にあり、平成30年度に国際学会や論文として発表する予定である。 なお9月には京都府和束町を訪問し、平成30年度以降に全農家を対象としたアンケートに協力いただくことで了承を得た。 以上の結果から、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度はまず最初に、前年度に収集した先行研究を取りまとめる。次に平成29年度に実施したボルツァーノで実施した2つの調査結果を取りまとめ、8月に実施される国際地理学会ケベック大会で学会発表を行う。なお2つの調査結果は最初に共同研究機関である南チロル農民連合へ報告し確認を受けた後に学会発表を行う予定である。さらに京都府和束町の農村観光については、地域との長い関わりから一定の研究実績があるが、この内容についてボルツァーノ側が強い興味を持っていることもあり、11月にボルツァーノの民間シンクタンクであるEurec主催で実施されるWorld Agritourism Congressにおいて発表を行う予定である。なお、この2つの国際学会・国際会議についてはすでに申込・審査が通っており、参加が決定している段階にある。 また南チロル農民連合から依頼があり、団体の機関論文集である『Sudtiroler Landwirt』にボルツァーノでの調査結果について執筆依頼があり、今年度前半には原稿を提出する予定である。 なお、京都府和束町への調査は農家が閑散期に入る秋以降に現地との打合せや設計に入る予定である。調査の実施は町側の協力次第であるため、できるだけ今年度中に実施したいと考えてはいるものの、事情によっては来年度になる可能性もある。 これまでの研究は順調に進捗しており、また今後の推進においてもある程度計画の実行可能性が担保されている状況にあるため、研究計画における課題は現在のところ存在しない。
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次年度使用額が生じた理由 |
イタリア・ボルツァーノにおいて9月と2月に調査を実施したが、2月の調査で実施したインタビューのテープ起こし費用と、インターネット調査の集計委託費は、年度末に発注することになり、納品がそれぞれ次年度となった。従って当該費用を平成30年度に繰り越すこととなった。 平成30年度の使用計画としては、カナダのケベックで開催される国際地理学会(8月)、ボルツァーノで開催される国際会議(11月)、京都府和束町での打ち合わせ(秋以降)、といった国内外の旅費や参加費が主となる。残りの費用については国内外のアンケート実施および集計にかかる費用に充てる予定である。
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