研究課題/領域番号 |
17K02131
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
古屋 秀樹 東洋大学, 国際観光学部, 教授 (80252013)
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研究分担者 |
野瀬 元子 大東文化大学, 文学部, 准教授 (60611845)
崔 瑛 静岡英和学院大学, 人間社会学部, 准教授 (60635770)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | TID / ローカル・エンタープライズ・パートナーシップ / 観光振興 / ビッグデータ / 地域ブランド |
研究実績の概要 |
本研究は「観光振興のためのTID制度の導入可能性とビッグデータを用いた計画支援に関する研究」とのテーマのもと,(1)地域経営のために有用な計画情報の獲得・提供,(2)観光振興組織のガバナンスのあり方の検討,(3)“ソーシャル・キャピタル”の機能と地域ブランド化に及ぼす影響の考察,以上の3点を具体の研究目的としている. その中で,(1)について,論文1(旅行記のLDAモデル分析による訪日中国人旅行者の旅行動の基礎的分析)ならびに論文5(ピックモデルを用いた訪日中国人旅行者による旅行記の基礎的分析)においては中国人の旅行記データ(SNS上での記述データ)を用いて分析を行うことができた.これらの手法は,記述内容から自動的に類似した旅行記を集約することができるが,データが多くなるに従い,集約後のクラス数が増大するために解釈が困難になるという特徴を有する.その問題点を改善するために,クラス間の関連性を階層構造を仮定することによって解決するPAM(Pachinko Allocation Model)を適用したものが論文3(類似性を考慮した訪日外国人旅行者の 訪問パターン抽出に関する基礎的研究)である.このモデルの適用により,論文1,5で用いたSNSデータの収集から得られる訪日外客の行動分析が効果的に進めることができると考えられる. さらに,(2)については,論文2(観光振興組織が担うプレイス・メイキング ―オランダ・ユトレヒトおよびベルギー・ブリュッセルを事例として―)によってオランダやベルギーの観光振興組織のガバナンスや効果的な取り組み,オーバーツーリズムへの対処方法を把握できた.また,(3)では,論文4(イギリスのチッタスロー(Cittaslow)タウンにおける 地域づくり)を通じて地域ブランド構築への取り組み過程を明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で示したように,本研究は3つの研究目的を設定している. その中で,(1)「地域経営のために有用な計画情報の獲得・提供」では,データ数,集約後が増大しても解釈が比較的容易になるPAMの適用可能性を確認できたため,来訪者の計画情報の獲得が効果的に行えることになったと考えられる.それによって,訪日外国人の回答データに基づいた流動データに加えて,携帯等の位置情報などから得られるサンプル数が多いデータを用いた分析も視野に入れることができた. さらに,(2),(3)については,これまでイギリスの観光振興組織であるLocal Enterprise Partnership(LEP)に加えて,アムステルダム,ブリュッセルにおける観光振興のための組織の実態を把握することができた.中央政府からの補助金の多少それぞれの組織運営について把握することができたため,日本においても来訪者数でばらつきがある地域についての観光資源の磨き上げから,プロモーションに至るまでの過程をより詳しく検討できると考えられる.すなわち,日本への示唆を与えることができる事例を調査できたと考えられる.以上から,目的(1),(2),(3)については,研究立案時の予想を若干上回る進展があったものと考えることができる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策であるが,まず目的(1)「地域経営のために有用な計画情報の獲得・提供」については,2018年度では,多数のトピックの関連性を考慮できるとともに,理解が容易な指向性非巡回型グラフ(DAG形式)での構造化を示すことができる発展型トピックモデル(Pachinko Allocation Model)を適用することができた.さらに,データ数を増加した中で経年的な需要動向の変化を把握すること,他地域との比較を通じた訪日外国人旅行者の誘客ポテンシャル推定など,地域経営のための有用な計画情報をさらに構築,推定することが重要と考えられる. 次に,目的(2)「観光振興組織のガバナンスのあり方の検討」,(3)「ソーシャル・キャピタル”の機能と地域ブランド化に及ぼす影響の考察」については,これらの先進地である英国のマンチェスターやリバプール,アムステルダムやブリュッセルの事例を把握することができた.観光振興が効果的に進んだ一方,来訪者の著しい増大によって観光資源の破壊や劣化が進んだり,地域の住環境が悪化するなどのオーバーツーリズムが問題となっている.これらのマネジメント方式についても合わせて検討する必要があると考えている さらに,本年度は最終年度であるため,研究成果を持ち寄り,最終的なアウトプットに向けた整合性の検討やそれに先立つ効果的観光振興組織全般の考え方の整理,各分析のインプット・アウトプットの関連性の明確化などについて,意見交換を行いながら,日本版DMOの効果的経営に関して必要不可欠な知見を包括的に獲得し,観光振興を実現するための仕組み,要素技術を明らかにする.
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