本研究は、国立公園に代表される我が国の自然風景地を対象に、その観光地としての資源性評価の再構築を行う基礎的作業の一環として、国立公園等に立地する文化的資源である山岳信仰空間(霊山)に関わる代表的な社寺を対象とし、その立地空間における直接の信仰対象である山岳以外の自然、特に海域との視覚的繋がり(可視性)を分析し、その景観特性を明らかにすることを目的とした。 調査対象の霊山として大山(大山寺・大山隠岐国立公園)、妙高山(関山神社・妙高戸隠連山国立公園)、那智瀧(那智大社・吉野熊野国立公園)、高野山(金剛峯寺・高野竜神国定公園)を設定し、これらに対して数値解析と現地調査の二つの調査を実施した。数値解析として、国土地理院提供の基盤地図情報のうち数値地図(標高メッシュ)活用し、GISを用いて信仰対象となる山岳の山頂周辺の可視領域および海面の可視領域、さらに両者の同時可視領域を可視頻度(見られ頻度)として解析した。これをもとにその領域とそれぞれの社寺の立地条件との対応関係、すなわち各社寺から信仰対象の山岳と海域がどのように見えるかについて検討した。その上で現地に於いて解析結果について実態を確認し検証を行った。 その結果、大山寺においては大山北壁と美保湾、関山神社においては妙高山と日本海、那智大社においては那智瀧と太平洋がそれぞれ同時に見える領域に各社寺が立地していることを明らかとした。また山上の閉鎖空間に立地する高野山では入口部の大門において瀬戸内海との視覚的関係があることも示された。これらのことから、国立公園等の自然公園における人文的資源である社寺が、直接の信仰対象である自然に留まらない広域の自然景観と結びついた価値を有するケースが少なくないことが示唆され、今後の自然公園計画における資源価値の評価のあり方について示唆を得ることができた。
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