今年度も昨年度に引き続き新型コロナウイルス感染症の影響により海外都市でのフィールドワーク実施には至らなかった。また、本研究のテーマである「エンクレイブ」は都市における人々の存在と活動があって成立する空間であるため、人の出入りが極端に減少したコロナ禍の国内都市においてもフィールドでの観察が困難な状況であった。このような制約の中で、昨年度に引き続きテンポラリー・アーバニズムと都市公共空間の概念を中心に情報収集・整理を進め、エンクレイブが必ずしも固定化された空間として形成されるのではなく、仮の一時的な空間として都市変容に関わる原動力ともなる、という新たな発想を得た。その発想から、デジタル・サイネージやプロジェクションマッピングのようなデジタル・メディア技術の応用拡大が夜間の都市空間形成や都市の演出に影響を与えるようになっている現象について、昼間に対する夜間のテンポラリー(一時的)なエンクレイブとして認識できることを確認した。なお、このような夜間の都市空間は、都市観光においても注目される概念である夜間経済(ナイトタイムエコノミー)の空間的な現れとしても興味深い調査対象である。残念ながら、コロナ禍において夜間経済は最も縮小を強いられた経済活動の一つであり、夜間エンクレイブ形成についての実証はコロナ収束後の課題として残されている。既存研究ではエンクレイブの典型的な事例としてゲイティッド・コミュニティやエスニック地区など社会的格差の発現となる空間が主に取り上げられているが、デジタル・メディア技術と夜間空間形成の関係は、文化的消費の発現の一つのタイプとしてグローバル都市の変容におけるエンクレイブの役割を示唆するものであり、今年度は“デジタル・プレイスメイキング”という概念から情報収集を行った。
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