研究課題/領域番号 |
17K02153
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田口 茂 北海道大学, 文学研究院, 教授 (50287950)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 現象学 / 日本哲学 / 西田幾多郎 / 田辺元 / 現実 / 媒介 / 数学 / 意識 |
研究実績の概要 |
今年度は第一に、数理物理を専門とする西郷甲矢人准教授(長浜バイオ大学)との共同研究をとりまとめ、『〈現実〉とは何か──数学・哲学から始まる世界像の転換』(筑摩書房)という書籍の形で出版した。そこでは、量子論を踏まえて現実の根本的なあり方を再考するなかで、新しい数学の一分野である「圏論」と、哲学的思考の一つである「現象学」とが一つに重なり合うようなものの見方を実践し、そこから決定論的世界観を批判し「自由」に根ざした現実の再定義を試みた。このような形で、物的現実と意識的現実の分断を乗り越えようとする本研究課題の総まとめとなる業績の一つを提示することができた。 第二に、Nicolas de Warren教授(Pennsylvania State University)と共同で、日本の中堅から若手の現象学者の寄稿による英語論文集を編集した。同論文集に収録した拙稿では、意識的現実の核となる「私」のあり方について、その一人称性を自明視する見方の批判的検証を行った。また、Andrea Altobrando講師(パドヴァ大学)と共同で、現象学と日本哲学の交差による新しい哲学的思考の可能性を探る英語論文集を編集した。同論文集に収録した拙稿では、フッサール現象学と西田幾多郎の哲学を参照しつつ、閉じた領域としての意識の捉え方を批判的に検証し、意識と現実の関係について、意識と外界との分断から出発する見方を相対化することができた。以上は、「現象学の見方に日本哲学のアイデアを融合させることによって、内部と外部との「媒介」そのものとして「現実」を解釈する」という本研究のアイデアを具体的な形にする業績となった。 第三に、ベイズと原自我に関連して現実観の変容を論じた単著論文2報を出版したほか、Tom Froese助教(OIST)との共著により、自然概念の根本的な再解釈を試みた共著論文1報を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、日本語の共著書1冊、共同編集による英語論文集2冊、査読付き英語論文2報、査読付き日本語論文1報を出版することができた。 日本語の共著書は、本研究課題のもとで行ってきた研究の総まとめ的位置づけをもつ書物であるが、そこでは単に量子論的世界観を現象学的現実観と結びつけ一つの大きな見通しを示すことができただけでなく、「自己」の問題、「自由」の問題、「確率」の問題にもアプローチし、一つの現実観のなかに統合することができた。これは当初は見込んでいなかった予想以上の成果と言える。 英語論文集二冊は、現象学と日本の哲学を結びつけ哲学的思考の新しいアイデアを得るという本研究課題の目的をそれぞれの仕方で実現するものとなった。英語による出版となったことで、日本発の現象学研究の成果や日本哲学の現代的ポテンシャルを世界に発信することができた。これも当初の予想を超える成果である。 Tom Froese氏との共著論文は、量子論をはじめとする現代科学にもとづいた「自然」概念の再解釈から、AIとロボティクスにおける「意味」の問題を根本的に再考したもので、近年著しい進展を遂げたAIとロボティクスの技術に更なるブレイクスルーをもたらすには、「現実」観の根本的な再考が不可欠だということを示すことができた。これも当初想定した以上の成果であると言える。 『心理学評論』に発表した論文は、心理学者・浅井智久氏(ATR)の論考に応答しつつベイズ的世界観のインパクトについて論じたものであるが、同氏との対話により、従来研究を進めていた精神医学領域のテーマ(統合失調症など)についてもアプローチすることができた。 この分野に関しては、2020年1月に北大に移籍した共同研究者の吉田正俊准教授との共同研究も大きく進展しており、自由エネルギー原理と現象学、エナクティヴィズムに加えて、精神疾患と意識変容についても考察が進展した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は2020年3月に終了する予定であったが、2020年3月に予定していた第18回フッサール研究会が、新型コロナウイルスの感染拡大のため延期となり、その分の経費を令和元年度中に執行することができなくなった。そのため、研究期間を延長して、延期されたフッサール研究会に参加し、本研究の成果について意見交換を行い、その成果をさらに発展させることを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、出席予定だった第18回フッサール研究会が延期となり、出張がとりやめになったため、次年度使用額が生じた。フッサール研究会は延期して開催される予定なので、開催時の出張費として使用する計画である。
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