研究課題/領域番号 |
17K02162
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
頼住 光子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (90212315)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 道元 / 『正法眼蔵』 / 修証論 / 親鸞 / 大乗仏教思想 / 法然 |
研究実績の概要 |
本申請研究の目的は、「日本思想史上最高の哲学書」とも言われ海外でも注目されている『正法眼蔵』における道元の思想について (1)道元の思想構造を、その独自の世界把握を軸に『正法眼蔵』等テクスト内在的に解明する、(2)(1)を基盤とし大乗仏教の修証論という観点から道元の思想的意義を多角的に検討解明する、という2点から解明することある。 (1)については『正法眼蔵』の本文校訂、諸異本の校合、道元が典拠にしたと推定される典拠の調査、道元の文体研究に基づき、テクスト内在的に、とりわけ「縁起―無自性―空」に焦点を当てて、修証論の観点から研究を遂行した。研究成果の一部について論文発表、国内外の口頭発表を行った。さらに、その研究成果を総括すべく『正法眼蔵』の精密な註解を出版する計画を具体的に進めている。 以上のような道元の文献的研究を前提として、(2)大乗仏教の修証論としての道元思想の解明を行った。まず、大乗仏教の修証論としては道元と対照的な法然、親鸞等の修証論を理解するための調査、研究を行い、道元と法然・親鸞の修証論を比較検討し、それぞれの特徴を浮かび上がらせると同時に、大乗仏教思想としての共通性についても解明した。従来の日本仏教思想研究は、宗派の枠組みでの研究の影響力が大きく、研究対象を特定の宗派内に限定する傾向にあった。また、研究の細分化が過度に進んだ結果、複数の異なる傾向の仏教思想家を横断的に、広い視野から研究することが避けられる傾向も見受けられた。しかし、総合的な日本仏教研究の必要性が叫ばれる現在、本課題研究が学術的手続きを踏んだ上で、道元と法然・親鸞という対照的な思想家を取り上げ比較思想的手法によって修証論の観点から研究し、その成果の一部を論文発表、口頭発表のかたちで公表したことは学界に一石を投じたといえよう
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本申請研究の一つ目の目的である、「(1)道元の思想構造を、その独自の世界把握を軸に『正法眼蔵』等テクスト内在的に解明する」に関しては、当初の予定通り、「仏性」「身心学道」「行仏威儀」「坐禅箴」「大悟」等、修証論の観点から重要な意味を持つ諸巻を取り上げて、その本文の、校訂、諸異本の校合、書写本等の調査を行い、さらに、道元が『正法眼蔵』執筆の際に参照したと推定される中国禅の典籍の調査収集を行った。これらの文献的研究を踏まえた上で、上記諸巻の全文注釈を行った。その際、従来十分に解釈されていたとは言い難い難解な箇所については、『正法眼蔵』全巻の用例を参照したり、その特異な文体を類型化したりしつつ読解の精度を高めた。さらに、今年度は、当初予定をしていなかった「渓声山色」「授記」巻についても前述の作業をすることができ、この2巻が道元の修証論を考える上で重要な巻であることが判明した。これらの成果の一部については、研究発表を行った。 また、本申請研究の二つ目の目的である、「(2)(1)を基盤とし大乗仏教の修証論という観点から道元の思想的意義を多角的に検討解明する」に関しては、まず、『法華経』『華厳経』『涅槃経』などの主要大乗経典や天台教学をはじめとする主要大乗教学に対する道元の受容の様態を調査、検討し、さらに、親鸞の主著『教行信証』を取り上げて修証論の観点から道元との比較思想研究を行った。親鸞を中心に研究を進める予定であったが、研究を遂行する過程で、法然についても研究する必要性を認識し、法然と道元に関しても比較思想を行う手がかりを得た。これらの研究成果の一部については論文、口頭で発表した。 さらに、道元思想の展開という観点から、近世曹洞宗における時間意識と道元の時間意識を検討し、その成果の一部を論文と口頭で発表した。このテーマについては今後、国際的研究の計画がある。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まず、これまで扱っていない『正法眼蔵』諸巻のうち、修証論という観点から重要な意味を持つ巻を選定し、本文の校訂、諸異本の校合、諸書写本の調査を行い、道元が『正法眼蔵』執筆の際に参照したと推定される中国禅の典籍の調査収集を行う。以上を踏まえ、上記の『正法眼蔵』の当該巻について全文注釈を行う。その際、従来解しがたいとされ、十分に解釈されていない難読箇所については、『正法眼蔵』全巻の用例を参照して解釈を行う。また、特異な文体については類型化し解釈を検討することで読解の精度を高める。以上の校訂、註釈、解釈作業に基づき、道元の思想的構造を解明し、研究成果を発表する。また、出版計画に基づき著作の刊行を目指す。 また、大乗仏教の修証論としての道元思想の解明のために、親鸞『教行信証』、法然『選択本願念仏集』をはじめとする浄土教関連文献や、『法華経』『涅槃経』『華厳経』等の主要大乗仏典に関する文献を調査研究し、修証論という観点から道元との比較思想的研究を推進する。また、その成果を発表する。 道元の時間論についての国際研究を具体的に推進する。本年度中に打ち合わせを行う計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響により、購入予定の本を年度内に購入することができなかったため次年度使用額が生じたが、当該図書は現在の時点ですでに購入済である。
|