「大乗仏教の修証論をてがかりとした道元思想の総合的解明―比較思想的探究」と題する本研究においては、修証論(修行と悟りについての理論)を軸に、比較思想研究という視点も踏まえて、道元思想の体系的解明をめざした。 そのための第一段階として、テクスト内在的に道元思想を解明することを目的として、『正法眼蔵』本文の注解を行った。なお、中心的に取り上げたのは、『正法眼蔵』中でも、特に修証論について集中的に議論されている「仏性」「身心学道」「行仏威儀」「坐禅箴」「大悟」「行持」等の諸巻である。具体的には、まず、諸写本の校合、本文確定、古注・新注をはじめ『正法眼蔵』注釈本の収集調査等を行った上で、さらに『正法眼蔵』中の用例を参照しつつ本文の解釈に取り組んだ。次の段階としては、『正法眼蔵』の特異な文体を検討して類型化し、その文体のパターンの把握を推進した。これによって、論理的一貫性をもって『正法眼蔵』の本文を理解するようにつとめた。以上に基づいて、道元思想の中心軸となる「空―縁起」に着目して、道元の修証論をめぐる思想を、構造的かつ体系的に解明した。 さらに、比較思想的視座から、道元思想の大乗仏教思想史上の意義を確定するため、親鸞や法然をはじめ浄土思想の修証論を解明して、道元との比較を行った。また、修証論に関する主要大乗経典や教学の受容様態についても比較思想的に検討を行い、道元の大乗仏教思想史上における意義を解明した。 以上の成果については、国内外において、論文発表・口頭発表を行い、研究実績を幅広く周知するように努めた。
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