これまで校訂版が作成されていなかった、十三世紀後半のオックスフォードの思想家ディンスデールのヨハネスの『ニコマコス倫理学』第二巻の註解書(『倫理学問題集』第二巻)の校訂版を完成させた。残存する三つの写本間の関係や読みの選択については、テキスト校訂の専門家であるトロント大学のジョン・マギー教授の助言を仰いだ。各写本の読みとその記録、テキストに採用する読みの合理性について自身で確認作業を行うとともに、精確性を期すために、スコラ期のラテン語に通じた井澤清氏に再確認作業(校正)を依頼した。また、アルベルトゥス・マグヌスの『倫理学注解』、トマス・アクィナスの『神学大全』や『倫理学注解』、同時代にパリの学芸学部教師によって書かれた『倫理学問題集』等、ディンスデールのヨハネスに影響を与えたと考えられる書物(写本含)を読み、十三世紀にアリストテレスの徳論が西洋でどのように受容されたかについての考察を深めた。以上の作業と考察を踏まえて、徳一般について論じた、ディンスデールのヨハネスの『倫理学問題集』第二巻の概要とその特徴について英文でイントロダクションを執筆し、作成した校訂版とともに欧文雑誌に投稿した。 昨年度末に欧文雑誌に投稿したディンスデールのヨハネスの『倫理学問題集』第十巻の校訂版及びイントロダクション(英文)については、査読者の意見を踏まえて改稿を行い、出版した。また、同じく昨年度末に投稿した、トマス・アクィナスの徳の分類論についても、論文の校正作業を行って出版した。 執筆依頼を受けて、西洋中世の註解書のスタイルと特徴について一般向けの新書に寄稿した。
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