研究課題/領域番号 |
17K02167
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中畑 正志 京都大学, 文学研究科, 教授 (60192671)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アリストテレス / 不文の教説 / プラトン / ストア派 / 物質 |
研究実績の概要 |
本年度は、当該の研究テーマについて、プラトンの「不文の教説」と呼ばれる「一と不定の二」という世界構成の原理、およびアリストテレスの形而上学の検討を軸とした研究を進め、プラトンとアリストテレスとの対比、そして後続するストア派との関係を考察した。 前年度の研究では、アリストテレスがその哲学の中心概念であるウーシアーを、プラトンから受容している局面を中心に考察したが、今年度は両者の思考の対比に注目した。まずアリストテレスが「あるというかぎりでのある」という形而上学の課題を設定したときに、何を問題としているのかを考察し、それが存在の基礎理論の探求ではなく、「~である」ことの根拠の探求であることを明確化するとともに、古代から中世にかけて、このフレーズが存在についての探求課題として受け取られていく変遷過程をたどった。さらにプラトンとの関係においては、「~である」ことと「一つ」であることとの関係についての両者の相違、なかでもプラトンの不文の教説に対するアリストテレスの批判を分析した。このことによって明らかとなったのは、一性あるいはそれぞれののものの統一性を支える原理についての思考の相違である。 他方ストア派については、その物体概念について、プラトン『ソピステス』での物体論者の考えをストア派が継承し展開しているという周知の論点をより詳細に検討したほか、プラトンの不文の教説に対して、ストア派がどのように批判的に受容・継承しているかを考察した。 以上の考察を通じて、「あること」とそれぞれのものの一性、そして不文の教説に見られるような規定的原理と非規定的原理をめぐるプラトン・アリストテレス・ストア派の関係についての理解を深め、この二つの原理の分化が歴史的経過においても、物体及び物質概念の成立の基礎的な部分にかかわる思考に貢献するという展望をえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アリストテレスの「形而上学」の研究を文献学的にも理論的にも大きく進展させ、とりわけアリストテレスのプラトン批判の分析を含めることによって、本研究課題である物質概念の成立に関するプラトン、アリストテレス、ストア派の思三者の関係がより明確に理解することが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果によって明らかとなった物質概念の成立に関するプラトン、アリストテレス、ストア派の三者の思想的関係を踏まえて、その思考の軌跡をより明確にする。そのための基礎資料であるアリストテレス『形而上学』とりわけM巻とN巻におけるプラトン批判については、注釈的作業を含む詳細な分析を提示する(これについては翻訳を含めてすでに公刊の予定がある)。そのうえで、ストア派については、むしろプラトンとの連絡関係という局面も重視しつつ、物質概念の成立にかかわる最も基礎的な思考を解明し、専門誌に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に本研究課題に関連する資料の発行と研究成果の発表に向けてある程度の支出が予定されているため、その準備として使用を控えた。使用が可能となればそのために使用する予定。
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