本年度は、「ある」(オン)をめぐるプラトン・アリストテレス・ストア派の関係について理解を深め、「存在」の哲学的な問題化とマテリアリズムの形成過程について次のような展望を論証した。 1) いわゆる「存在論」の観点からは、ストア派の物体主義的一元論はしばしばプラトンのイデアと感覚対象との「二元論」と対立的に、アリストテレスの「一元論」とは親近的に理解される。しかしストア派の物体の概念や能動原理と受動原理という二原理論的思考がプラトン『ソピステス』の「物体」および「ある」をめぐる考察や『ティマイオス』のコスモロジーのある仕方での受容であることは明らかである。この研究では、ストア派によるプラトン哲学の独自の受容を通じて、イデア論においてはある連絡を保持していた「~である」という「ある」(規定性)と「~がある」という「ある」(存在)との分離が遂行されていることを示した。 2)ストア派の以上のようなプラトンの受容は、アリストテレスによるプラトン哲学の受容及び展開と対照的である。アリストテレス自身の哲学において二つの「ある」の強い連絡は、プラトンから継承しているウーシアーの概念をはじめとして明瞭であることを確認した。 3)ただしストア派はその思考をアリストテレス的概念を用いて表明した。とりわけ重要概念であるウーシアーとヒューレー=マテリアの概念がそうである。こうしてストア派は、「存在」の問題化および「物質」概念をアリストテレス的語彙によって定着させている。さらに、ストア派以後のアリストテレス解釈は、こうして前景化された「存在」の概念を主要な哲学的問題とする立場からアリストテレスの『形而上学』を読解し、とりわけontlogiaという概念の直接の源泉である「ある(オン)というかぎりでのある」およびその「ある」の核心とされるウーシアーの概念を「存在」にかかわる主要概念として解釈している。
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