研究課題/領域番号 |
17K02168
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
舟場 保之 大阪大学, 文学研究科, 教授 (20379217)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カントの平和論 / ハーバーマス |
研究実績の概要 |
カントの平和論がもつ理論的前提について明らかにするために、ハーバーマスの「国際法を立憲化する可能性はまだあるか」におけるカント論を手がかりにした。カントが世界平和を実現する体制としてなぜ「国際国家」ないし「世界共和国」ではなく「諸国家連合」を選んだのか、その経験的‐現実的理由ではなく、選択の背景をなす理論的前提はなにか。それは、カントが市民的体制ないしは共和主義的体制というものにこだわったこと、そのことである。それは、『普遍史の理念』(1784)の第7命題および第9命題などから明白である。こうした探究を行いながら、カントのパトリオティズムがどのようなものであるのか、それは隠された形でのナショナリズムではないのか、ということを、フィヒテの『ドイツ国民に告ぐ』およびベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』を典拠として、示すこともできた。成果は、第11回日独倫理学コロキウム(2017年9月5日、デュースブルク=エッセン大学、ドイツ連邦共和国)、日本フィヒテ協会第33回大会(2017年11月12日、明治大学中野キャンパス)、第5回大阪哲学ゼミナール(2018年3月17日、大阪大学豊中キャンパス)において発表を行うとともに、Nationalismus und/ oder Potenzialitaet des Weltbuergerrechts bei Fichte として、Philosophia OSAKA, Nr. 13 (35-44頁)に掲載した。また、これらカントの平和論に見出された理論的前提を現代の議論に接続するため、ハーバーマスの『事実性と妥当』『他者の受容』『自然主義と宗教の間』を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のテーマである、平和を実現するための「諸国家連合」でも「世界共和国」でもない第三の道を探究するため、今年度は、まず、カントの平和論の理論的基盤を明確にすることを研究目的のひとつとしていた。実際には、ハーバーマスの論文を手がかりとして、カントが世界平和を実現する体制としてなぜ「国際国家」ないし「世界共和国」ではなく「諸国家連合」を選んだのか、その経験的‐現実的理由ではなく、選択の背景をなす理論的前提を探究し、それは、カントが市民的体制ないしは共和主義的体制というものにこだわったこと、そのことにあることを明らかにできた。このことの傍証として、カントのパトリオティズムがどのようなものであるのか、それは隠された形でのナショナリズムではないのか、ということを、フィヒテの『ドイツ国民に告ぐ』およびベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』を典拠として、示すこともでき、成果を第11回日独倫理学コロキウム(2017年9月5日、デュースブルク=エッセン大学、ドイツ連邦共和国)、日本フィヒテ協会第33回大会(2017年11月12日、明治大学中野キャンパス)、第5回大阪哲学ゼミナール(2018年3月17日、大阪大学豊中キャンパス)において発表し、欧文論文を交換することができた。また、これらカントの平和論に見出された理論的前提を現代の議論に接続するために、ハーバーマスの『事実性と妥当』『他者の受容』『自然主義と宗教の間』を検討し、こうした理論的前提が現代の問題状況というパースペクティヴからどのような意味を持ちうるのかを、肯定的な面、否定的な面を合わせて考察するための準備を行うことができた。これらの成果は、予定していた通りのものであり、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、前年度に考察の対象としたカントの平和論が含意する理論的諸前提の有効性および非有効性を見定めるために、ハーバーマスが問題視してきた「統合から分裂へ」という方向性をもつ議論とこうしたカントの平和論とを、比較検討する。この対質を通じて、「諸国家連合」を正当化するカントの議論が、永遠平和の実現にとって脅威となりうる潮流を、なぜ、そしてどのようにして食い止めるポテンシャリティをもちうるのか、明らかにする。それは、「諸国家連合」を範とする国際連合が、世界の平和にとって有意味な側面をもちうることを同時に示すことでもある。他方、ハーバーマスやルッツ=バッハマンの考察、またハウケ・ブルンクホルストの論考といった、アクチュアルな思想潮流を参照・検討することによって、世界の平和にとって有意味な側面をもちうるにもかかわらず機能不全に陥っている国際連合に代わり、どのような地域共同体がどのようにして、暫定的にではあるが可能な限り戦争を遠ざけるよう機能しているのかを具体的に描出する。これら3名は、力点の置き方はそれぞれ異なるものの、しかしいずれも地域共同体を形成するための中心的なエレメントとして、法概念以外に「連帯」(Solidaritaet)概念に照準をあてている。「連帯」は、ホネットの議論では「統合から分裂へ」という転回を必然的なこととする概念だったが、この3名にとってはむしろ統合を可能にするものとして論じられているのである。ハーバーマス、ルッツ=バッハマン、ブルンクホルストと、ホネットというふたつの陣営が使用する「連帯」概念の相違点を明確にすることによって、地域共同体にはどのような可能性を見出すことができるとともに、どのような問題点を含みうるのかを証し立てることが可能になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行上必要な図書の出版が、予定されていた今年度ではなく来年度に延びたため、不要不急の物品費として使用する代わりに、次年度使用することとしたため。
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