世界平和の実現を考える上で重要な役割を果たすはずである国際連合のアイデアを哲学的に考え出したカントの平和論を検討し、カントが世界平和を実現するものとして、「国際国家」ないし「世界共和国」ではなく、「諸国家連合」を選択した際、どのような理論的前提がなされていたのかを明らかにした。この理論的前提は、世界平和に逆行するアクチュアルな傾向のひとつである「統合から分裂へ」という流れとは正反対のものであることを確認し、カントの議論および国連は、平和を妨げる方向性に対抗しうるロジックを含意していることを明確にした。 ところでこの理論的前提は、「諸国家連合」か「国際国家」ないし「世界共和国」かという二者択一の可能性しか認めることができないものであるが、目下のところ国連以上に平和に貢献しうる体制は、さまざまな地域共同体である。こうした地域共同体を理論化することができない点に、カントの議論の限界および国連の体制としての原理的欠陥を認め、カントの議論のもつ長所を生かしつつ、その短所に修正を加えることによって、世界平和を実現するものとして「諸国家連合」でも「国際国家」ないし「世界共和国」でもない第三の選択肢の提示を試みた。第三の選択肢は、現代の最先端の平和論であるハーバーマスやルッツ=バッハマン、ニーダーベルガーらの考察を参照しつつ、これら哲学者の議論に残る問題点を明るみに出しつつ、展開した。それは、世界政府のような世界に唯一の行政府を設けることなく、しかし世界に唯一の憲法体制を設定する法的体制であり、カント的共和主義によって正統化される公共体である。具体的な考察をふまえ、第三の選択肢がアクチュアルな状況において有効であることを示すこともできた。
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