研究課題/領域番号 |
17K02169
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
松田 毅 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (70222304)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ライプニッツ / 存在論 / 生物 / 時間 / 経済 |
研究実績の概要 |
ライプニッツの存在論の研究のうち、 その歴史的文脈の解明と関係主義的解釈とを試み、 論文の掲載と口頭発表および関連する、シュタール批判のライプニッツの生物哲学の基本的文献の本邦初訳とその詳しい解説を公刊した。基本的に公刊されているライプニッツの遺稿も含めた諸文献を手掛かりに研究を行い、生物哲学に関しては「形成力」概念に関するライプニッツとカドワースの異同を、周辺のルクレール、ピエール・ベールら当時の「生物神学」の論争の文脈から示した。「モナド」概念について「生気論的」とされることもある、ライプニッツの立場が、生物の物質的・機械的側面を存在論的にも認識論的にも強調した点を論証した。 ライプニッツの「経済」の概念についても、ライプニッツが、生物の有機的物体に関する「動物の経済」や「摂理」の意味でだけでなく、現代の意味の「経済活動」に関する学問的関心を抱き、重要性を強調すると同時に、経済活動の倫理に関する法的規範的考察も行い、ロールズやヨナスの正義論や「事前警戒」が示唆されていたことも示した。ただし、経済哲学としての評価についてはさらに検討が必要と考えている。 時間論についても、ニュートンの絶対時間など物理学で問題となる、枠組みとしての「数学的時間」だけでなく、クラークとの論争やブルゲ宛書簡に示唆されている「具体的現実的時間」の検討を行い報告をした。「現実的時間」の問題に、アナクサゴラス由来の「ペリクオーレシス」の思想系譜にある「生物哲学」と不可識別者同一の原理の存在論の文脈からアプローチできることを示した。「現実的時間」の関係主義については論文投稿したい。以上によりライプニッツ存在論の「自然主義」の位相と社会哲学への探究の突破口が開かれたと考えている。このように「モナド」の存在論的「独立性」強調の陰に隠れがちな、ライプニッツの存在論の関係主義的特徴を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ライプニッツの哲学、特にその生物学、時間論、経済思想に着目し、研究の現況を踏まえ、その存在論的問題を解明することを目的とする。計画では、「生物哲学」の存在論的解釈から始め物理学分野では研究の蓄積のある「時間論」の「進化」思想的展開といぜん未開拓にとどまる「経済思想」を焦点に、ライプニッツのモナドロジーの存在論の歴史的文脈を解きほぐすと同時に、 その現代的可能性を解釈することを課題としている。そのような射程で見た時、今年度は、カドワースとライプニッツの「形成力」の異同の検討と経済思想に関する査読付きの学協会誌での論文掲載も含めた研究成果があった。時間論に関しても日本語と英語での報告を行ったので、当初の計画で予定していた内容は、ほぼ順調に達成されたと考えている。ただし、余裕があれば、『人間知性新論』などに即して、不可識別者同一の原理と「微小表象」説の連関に注目し、「認知科学」や現象学が問題とする「無意識的」ないし「生物的次元の時間」の個体性と関係性について探究する予定であったが、この課題は次年度に引き継がれる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は残っている「時間論」から生物哲学と不可識別者同一の原理の存在論に向かう。 (1)不可識別者同一の原理が、物体運動記述の枠組みとしての「観念的時間」と「具体的時間」を存在論的に分ける機能を有する点から始め、デ・フォルダー宛書簡、デ・ボス宛書簡およびクラーク宛書簡の再解釈も含め、遺稿などを解明する。また『人間知性新論』での不可識別者同一の原理と「微小表象」説の連関に注目し、「認知科学」や現象学が問題とする「無意識的生物的次元の時間」の個体性と関係性も探究し、時間論の場面で「個体性と関係性の存在論」を究明する。以上からライプニッツの「関係主義的」時間論の内実を明らかにし、現代で問題となる「時制」、「時間の矢」、「現在主義」などについても考察する。 (2)また年度後半からは、第三段階として、ライプニッツの経済思想の存在論的研究:「モナド」の個体性と社会性の解明に入る。これまでの成果をもとに「時間的弁神論」と「迂回の論理」に資本主義の精神を見るElsterを手がかりに、ライプニッツの経済思想の解明に存在論的観点から取り組むと同時に、遺稿の『他人の位置』、『正義に関する共通概念についての省察』などで展開される、経済活動に関連する「公平」「補償」「事前警戒」の規範・法に関するライプニッツの社会倫理の問題に取り組む。 以上の研究内容の専門性と拡がりを考慮し、進捗状況に応じ時間論研究者や認知科学、現象学者を招聘し、討論を行う機会をもちたい。研究成果は内外の学会等で発表、学術誌に投稿する。11月にオーストラリアのQueensland大学で開催されるAustralasian Seminar in Early Modern Philosophy,2019での報告が決まっている。また研究過程で、不可識別者同一の原理、 時間論に関する重要な未邦訳のテクストの翻訳にも取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は論文を執筆したほか、内外で調査、発表を行ったが、海外からの研究者招聘に関しては他の科研代表者と共同で行ったため、費用がかからなかったことなどもあり、支出が予定を下回った。今年度は、海外からの招聘者は未定であるが、実現したい。
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