研究課題/領域番号 |
17K02170
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中 真生 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (00401159)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生殖 / ジェンダー / 身体 |
研究実績の概要 |
今年度8月には「生殖における「間接性」―父親と養親の視点から」(近刊)を脱稿し、11月の哲学会大会では「産むことから分離した「親」の形成――父親や養親の「間接性」を手がかりに」という題名で発表した(発表原稿を神戸大学文学部哲学懇話会『愛知』2020年に掲載予定。)これまでの研究は、母親と父親、生みの親と育ての親の間に明確な境界線がないことを主張しつつも、母親の視点からの考察が多かったが、これらの発表・論文では視点を思い切って父親や養親の側に置き、そこから生殖の経験を見ると何が言えるかを考察した。昨年度までは、母親側からの考察が主だったが、それらを反対の視点から再考し、母親に置かれがちな重心をずらすことで新たな見方に開いている点で意義深い。 また3月に開催予定だった(コロナウィルス感染防止のため延期)日本アーレント協会での「生まれること」を共通題目とするシンポジウム準備のため、「「生むこと」あるいは「子どもとの関係」における個別性と普遍性~レヴィナスをひとつの手がかりに」を執筆した。ここでは、これまでの具体的事象や事例に焦点を当てた研究と、報告者が長年研究してきたレヴィナスの思想とをつなげる考察を行った。レヴィナスの「繁殖性」という重要な概念のひとつを、哲学の文脈にとどまらず、生殖の具体的文脈の中で理解して見せた点で意義がある。産んだこと、血のつながった親であること、自分の子どもがいること、をそれぞれ、子どもとの関係で優位な条件と無批判に考えられていることに疑問を呈した。 今年度の以上の研究によって、生殖に関して、性差や個人差を捨象しないと同時に、それらを固定化せずに、生殖しうる人間主体のあり方の考察にも接続する統合的な倫理学的研究を遂行することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の複数ある主題のひとつである、「生殖における男性の経験」に関してとくに研究を推進することができた。しかも「男性の経験」にとどまらず、母親の立場を相対化するために必要な養親についての考察も行い、それを父親についての考察と接続し、産みの親、生みの親、育ての親のあいだの連続性と差異の検討を、親についての総合的な考察の中に位置づけて遂行することができた。初めに計画した順番ではないものの、各年、小テーマをいくつかずつに分けて、それぞれに集中して研究を進めることができている。調査研究に関しては間接的なデータ収集にとどまっているものの、抽象度の高い理論的研究と、事例の則した具体的研究を分けつつ、関連させながらともに遂行することはおおむねできている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は最終年度に当たるため、これまでの研究成果をまとめる作業を中心に行う。すでに「レヴィナスと生殖/子ども」(仮題)の寄稿を依頼されているので、レヴィナスやフェミニズムを中心とした生殖に関する思想と本研究の連関を明らかにする研究をこの機会に強化する。一方で、妊娠・出産・授乳・不妊・死流産の具体的な経験に則した研究が、他に比べて不足しているので、それを集中的に進め補う。また、コロナウィルス感染防止を目指す生活様式への移行のため、見学やインタビューなどの調査研究を本格的に行うのは困難と予想されるため、引き続き、思想家に依拠した理論中心の研究と並行して、可能な範囲での経験に依拠した具体的なレベルでの考察とを行い、両者を有機的に関連させた統合的な研究に練り上げることにとくに注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響により、今年度終盤に予定していた国内出張とそれに伴う交通費、出張費、収集予定の資料購入費を止揚せずに持ち越した。次年度に国内および国外出張が可能であれば旅費に使用し、それが難しい場合は、研究の集大成のための資料費を中心とする必要系に充てる。
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