研究課題/領域番号 |
17K02170
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中 真生 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (00401159)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生殖 / ジェンダー / 身体 / 他者 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、自分の知やコントロールを超えた「他なるもの」との関係が、主体のあり方をどのように形成し、また変容させるかを、身体の次元で具体的に解明するために、特に「生殖」 の観点から切り込むことである。人間を生殖するものと見る見方は、身体や性(ジェンダー)、そして他なるのものとの関係の考察を不可分なものとして要請する。また個人の経験の次元で見れば、生殖には、生む・生まないといった性差や個人差が本質的な要素として含まれる。本研究は、「生殖」を基軸とすることで、 一方の、具体的な経験を掬い取る研究と、他方の、差異や特殊性を考慮した上でなお、それらに通底する主体のあり方を浮かび上がらせる理論的研究とを、性・身体・他者の観点から統合した倫理学を構築することを目指している。 本年度はまず、当初の研究計画通り「生殖における男性の経験 」に焦点を当てたほか、生んでいない親である養親の経験を、父親の経験との連続性に注目しつつ考察し、「生殖における「間接性」――父親と養親の視点から」、「生むことから分離した「親」の形成――父親と養親の「間接性」を手がかりに」という二つの論文にまとめることができた。また、赤ちゃんポストや新生児養子縁組に関する日本の具体的な状況を考察する英語の論文を論文集に収めることができた。さらに、「生むこと」と「生まれること」の違いや、生むものとしての人間を考えることの意味などをレヴィナスやその他の思想家に沿って理論的に考察し、シンポジウムで提題した。 このような本年度の成果に限らず、本研究開始から生殖の様々な領域に関して蓄積してきた論文の考察、資料を踏まえた上で、生殖全般を俯瞰するかたちで、生殖における選択、性差、身体性、他なるものの経験 などの主題を考察し、著作、『生殖する人間の哲学――「母性」と血縁を問い直す』(8月刊行予定)にまとめることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナウイルス感染拡大の影響で、海外に出張できなかったこと、また国内の資料収集や、インタビューなどの出かけられなかったために、実践的な研究があまり進まなかったが、その分、理論的研究の方は進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウイルスの感染対策による制限がいつまで続くか不透明なため、実践的研究の方は、進められる範囲内にとどめる。一方で、新たに、生殖と老い・死という主題の考察を補う必要性が出てきたため、この研究を進めて、「生殖」に関する総合的な研究を補完することに注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で国内・国外ともに出張することができなかったため、旅費の支出がない。また、同じ理由で、研究補助を雇用したり、インタビューすることが難しかったため人件費や社金の支出がなかった。 次年度も出張や人との接触がどれだけできるかわからないため、「生殖」に関する本研究の様々な主題に新たに、その重要性が近年の研究で明らかになった「生殖と老い・死」に関する主題を付け加え、研究の幅を広げることで、研究を進め、深化させることを目指す。そのため、状況によって可能になる限りの旅費や人件費以外の多くは、書籍や消耗品を中心とする物品費として使用することを計画している。
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