最終年度である2023年度には、論文「「喪失」という経験-世界へのかかわり方の変容」やシンポジウム提題「子どもの経験から「喪失」を考える」を中心に、「喪失」に関する研究を具体化し、推し進めることができた。「喪失」という主題は、本研究課題のメインテーマである「生殖」のうちに位置づけられ、本研究課題の研究をさらに展開するものである。 本研究課題は、人間を「生殖するもの」という観点から一貫して哲学・倫理学的に考察するもので、妊娠、出産、不妊、生殖技術、中絶、養子縁組、「赤ちゃんポスト」、養育、母性、母親/父親/養親であること、養育におけるジェンダー、児童養護など多岐にわたる主題に目配りした研究を行った。(「喪失」を除く)これら「生殖」に関しては、英語によるもの3つを含む論文5本、共著4冊を発表することができ、それらにおける特に重要な主張を集約して相互に関連させ、単著『「生殖」する人間の哲学』にまとめることができた。生に根付く身近なテーマであるため反響が大きく、出版を機に、複数のメディアによる取材や、講演などを通して、哲学倫理学研究者以外の、一般読者を含む多くの人々に広く研究成果を広める波及効果があった。 人間を生殖するものとして見た場合、直接的には先に挙げた目に見える形で妊娠・出産・養育に関わる諸主題がまずは重要で、本研究課題前半ではそれらの考察に取り組んだが、生殖をより広く見れば、人間が生きる上で大事なものを失い、年老いていくことも生殖するものとしての人間に本質的なものである。そのため本研究課題後半では、「喪失」を主要テーマの一つに掲げ研究を進めた。これに関しては研究期間内に、共著2冊、論文1本、シンポジウムでの提題2本を発表することができた。この研究は、本研究課題の成果を基礎にしつつ、新たな展開可能性を含むもので、次の大きな研究計画につながる重要な研究成果を残すことができた。
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