今年度は研究の最終年度にあたり、ユンガー兄弟とハイデガーの技術論の連関についてを中心的テーマとした。2018年度は弟のF. G. ユンガーの『技術の完成』(白水社、2018年)の出版もあり、本研究にも新しい視覚が開かれた年であったが、2019年度は、兄のE. ユンガーとハイデガーの思惟の連関、さらに、1930年代の学問論的な危機の状況に対する現象学からの対応に焦点を当てた。 論文「ハイデガーの技術論における人間存在―E. ユンガーの思想との交錯」(『倫理学研究』第49号、2019年)においては、ハイデガーの技術論と、ユンガーの『総動員』、『労働者』との思想的連関を明らかにした後に、ユンガーの人間存在の理解とも異なるハイデガーの思惟における人間在のあり方を明らかにした。さらにそこから、現代の我々の直面するテクノロジーの危機に対する対処の道を探った。 論文「諸学問の危機と現象学―フッサールとハイデガーの思惟を手引きとして―」(『愛媛大学法文学部論集人文学編』第48号、2020年)では、1930年代のフッサール晩年の著名な著作『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』(1954年)と『存在と時間』(1927年)前後のハイデガーの思惟を手引きとしつつ、19世紀末以降に露わになってきた諸学問の危機のあり方に対して現象学の立場から投げかけられた批判を現代の我々の状況に結びつけ、21世紀を迎えた現代の危機的状況を確認した。 また、最終的に本研究の総括として『「ニヒリズムの現実体としてのテクノロジー時代に於ける「労働」と「活動」の再検討」研究成果報告書』を作成した。特に「結びに代えて」では、ユヴァル・ノア・ハラリ『21 Lessons』(2018年)に、アーレントの『活動的生』(1960年)に通ずる思想を見出し、現代のテクノロジーのもとにおける「労働」と「活動」の捉え直しへの視座を得た。
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