研究期間の最終年度にあたる今年度は、Th・W・アドルノの亡命期間における現象学研究を解明するため、未公刊草稿「フッサール・ブック」の分析・研究を引き続きおこなった。昨年度に引き続き、亡命期間の現象学研究が以降どのように展開してゆくことになったのか、という課題について、「フッサール・ブック」とその後の著作との比較をおこない、共通の問題関心や草稿に独自の観点など、いくつかの事項が導き出された。そしてこれらの事項の中から、個別と普遍の概念を主題として研究をおこない、その成果については、論文として公表した。この「フッサール・ブック」については、3年にわたる研究期間ではまだその全貌の解明までには至らなかったが、今後も継続して分析を進めることになる。 また今年度は、「フッサール・ブック」が成立した思想史的背景を探求するため、イギリスのオックスフォード大学を訪問し、図書館に保管されている書簡と公文書の調査をおこなった。その際、アドルノの資料だけでなく、当時彼がイギリス滞在時に関わっていたE・カッシーラーや、アドルノが現象学研究と並行して研究対象としていたK・マンハイムについての資料もあわせて閲覧した。これらはアドルノの現象学研究と同時期におこなわれていたものに関連しており、彼がそのような思索の歩みを進めていたかをしる手掛かりとなる。そしてこれらは、今後の研究を継続するにあたって、その基礎的資料となる。 さらに、昨年度に学会発表で公表した他者経験論に関する研究を論文として公表した。
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