研究課題/領域番号 |
17K02194
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
小林 琢自 立命館大学, 文学部, 非常勤講師 (60518091)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 現象学的社会学 / 1920年代日本社会学史 / ヴァイマル期ドイツ精神史 / 全体主義 |
研究実績の概要 |
2017年度から2019年度までの調査と研究によって、尾高朝雄の現象学的国家論における「全体」概念の「生成」には、1920年代の日本社会学における現象学受容の或る典型的な傾向と、またその根底に第一次世界大戦を経験したヴァイマル期ドイツのユダヤ系知識人の精神性と社会学への期待が深く関与していることが明らかになった。フッサール現象学についての尾高の独特の受容仕方は、これによって新たな仕方でとらえ直すことができ、同時に京城帝國大学時代から始まる「ヘーゲル哲学への接近」に関するいくつかの手がかりもここに発見された。またこれによって尾高の「全体」概念の「展開」にかかわる「ハイデガー存在論」受容の内実を新たに捉え直しが可能になった。とくにヴァイマル期ドイツの精神史を、尾高の「国家論」の「生成」と関係づけて論じる研究はこれまでにない意義を持つものと確信する。 2020年度は、この成果を踏まえて、さらに尾高の「全体」概念の「展開」を、第一次大戦後1920年代ドイツと日本それぞれにおける「危機」の意識と「社会学」建築への期待、「全体性」を志向する動機の異同、さらに1930年代以降の両国の歴史的動向の差異を手掛かりにすることで、歴史的・理論的に解明することを目標に研究を続行し、順次成果を公表する予定であった。 しかし2020年度はいわゆるコロナ禍にあって、研究に関わる社会的状況および生活状況が激変した。このため、国内外の資料調査も不可能となり、学会・研究会への参加・発表も断念し、独自に継続していた研究会も中断している。同じく研究成果を取りまとめた書籍の出版計画についても2020年度内という予定を、2021年度内へ変更しつつ、そのまま続行することになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時の計画では、尾高朝雄の「全体」概念の「生成」と「展開」を歴史的・理論的に解明する課題について、三年間で、前期(留学前後)・中期(帰国後)・後期(戦中期)に区分し、直進的・段階的に順次研究を進展させていく予定だった。だが一・二年次の調査・研究の成果によって、前期(留学前後)における尾高の理論的背景の充溢と錯綜こそ、彼の「全体」概念の「生成」と「展開」にとって決定的であることが判明した。そのため三年次(2019年度)は、前期における日本の社会学史的研究と、ドイツ精神史という観点からの資料研究を最優先にした。これによって当初、三年次(2019年度)に計画していた、京城帝大および東京帝大時代における「ヘーゲル哲学の受容」についての調査研究は十分になされなかった。 四年次(2020年度)は、尾高の「全体」概念の「生成」に関するこれまでの研究をふまえつつ、その「展開」について、資料調査にもとづいて歴史的・理論的研究を続行しつつ、学会での発表と研究論文の公表を予定し、さらに研究成果として書籍を年度内に出版する計画を進めていた。しかし残念ながらいずれもコロナ禍によって断念せざるえず、次年度の目標として計画をスライドすることになった。 したがって研究の段階自体は、申請時の計画からすれば、中期(帰国後)にさしかかっており、ただし京城帝大時代から始まる「ヘーゲル哲学の受容」については十分に明らかになっていない状況である。この点で進捗状況はやや遅れていると言わざる得ない。 だが尾高の「全体」概念の「生成」と「展開」の問題は、すでに当初の計画とは別の仕方で、とりわけ精神史的な観点から研究課題を拡大充実する状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
尾高朝雄の現象学的国家論における「全体」概念の「生成」と「展開」が当研究課題であるが、とりわけ「展開」にかかわる、(申請時の計画において)最終目標であった「ヘーゲル哲学の『受容』」の内実を解明する課題は、資料調査のめどが立たない状況が続いているため、断念せざる得ない。 しかし上述のように「生成」と「展開」に関わる理論的背景の充溢と錯綜を、第一次大戦後1920年代ドイツおよび日本それぞれにおける「危機」の認識と「全体性」を志向する動機の異同、1930年代以降の両国の歴史的動向の差異を手掛かりにすることで、可能なかぎり歴史的・理論的に解明することを目標にする。言い換えれば「ヘーゲル哲学への『接近』」の動機を尾高の時代認識と理論的展開を踏まえて解明する、という仕方で本研究の計画を変更する。 2020年度は研究費を利用せず、すべて書籍出版のために残したので、この計画を続行し研究成果を書籍の形で公にする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
全額を書籍の出版に利用する計画であったため、2020年度は研究費を利用せず温存した。 2021年度も計画を続行し、研究成果を出版する。
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