2021年度においては、研究実施計画にもとづいて、2020年度から開始された「総合的研究(紀元前5世紀の哲学・倫理思想の全体像)」を発展させ、研究全体をまとめ、完成させる作業をおこなった。具体的には、2020年度に開始された「基礎的研究1(紀元前5世紀の自然哲学)」と「基礎的研究2(言語と世界を巡る認識論)」の研究成果の整理とまとめをさらに進めるとともに、「基礎的研究3(共同体論と倫理思想)」の研究成果のまとめと整理をおこない、研究全体をまとめて、紀元前5世紀の哲学・倫理思想の全体像を明らかにし、それがギリシア哲学史全体の理解にもたらす意味を考察した。具体的な研究実績は、下記の通りである。 まず、今年度の前半では、これまでの基礎的研究の成果をまとめ、完成させる作業をおこなった。「基礎的研究2(言語と世界を巡る認識論)」では、紀元前5世紀における言語(ロゴス)と世界をめぐる問題を、相対主義、弁論術、「名前の正しさ」という三つの観点から考察したが、これら一連の研究を整理し、プロタゴラス、ゴルギアス、プロディコスらの思想を総合的にまとめて、その全体像を明らかにした。さらに、「基礎的研究3(共同体論と倫理思想)」では、「ノモスとピュシスのアンチテーゼ」の問題の登場をきっかけに生じた共同体と倫理の基礎づけをめぐる諸思想を再整理し、プロタゴラスの社会思想、アンティフォンのノモスとピュシス論、ヒッピアスにおける法思想と倫理思想などを総合的にまとめ、その全体像を明らかにした。とりわけ、これまで研究が不十分だったヒッピアスの思想を集中的に研究することによって、「基礎的研究3」を完成させ、問題の全体像を明らかにすることができた。 今年度の後半では、これまでの研究成果を全体としてひとつにまとめ、紀元前5世紀の思想全体のなかに有機的に位置づけるための考察をおこなった。
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