研究課題/領域番号 |
17K02197
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
森田 團 西南学院大学, 国際文化学部, 教授 (40554449)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 言語哲学 / 歴史哲学 / ベンヤミン / ハイデガー / フロイト |
研究実績の概要 |
平成29年度は、ベンヤミンの言語哲学を中心に研究を行った。その際、「翻訳者の課題」の読解を主要目的としたが、とりわけ同時期(1920年代初頭)に書かれた残された断片に注目し、ベンヤミン自身によって「語と概念」あるいは「言語とロゴス」と名づけられた、最終的には挫折する教授資格申請論文の企てを読み解くことで、とりわけ象徴と非-伝達可能性の概念の解明に力を注いだ。これらの概念は「翻訳者の課題」の最終部においても問題になるものである。その成果は平成30年6月発行の『思想』(7月号・岩波書店)に掲載される「非‐伝達可能性の象徴としての言語――ベンヤミンにおける記号への問い」にまとめられている。 また当該年度は、最終年度の研究主題であるベンヤミンとハイデガーとの関係を考えるために、『存在と時間』における言語と記号の問題をあつかった発表を行い、それに基づく論文を公表した(「罪のしるしとしての現存在――『存在と時間』における言語の根拠への問い」、『Zuspiel』、第1巻、178-191頁)。この論文では言語を用いる現存在の構造そのものが記号の構造と類似していることを指摘した。この研究は最終年度の研究計画を遂行するための基盤を形成するものである。 さらに平成30年度の研究主題のひとつであるベンヤミンとフロイトとの関係を準備するために、フロイトの心的装置についての発表を行った(「心的装置と幻覚――フロイトにおけるイメージの起源」、形象論研究会 特別公開研究会、京都工芸繊維大学)。この発表も平成30年度の研究計画を円滑に遂行するための基礎的な仕事となっている。 当該年度においては、自らの訳稿を利用した大学院講義にて、ヤーコプ・タウベスの『西洋の終末論』の精読も行った。その理解の深まりは、ベンヤミンの歴史哲学を広い視野で捉えるための必要不可欠な土台となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記のベンヤミンについての論文において、この研究全体を遂行するための基本的な視座が理論的な側面で固まったことによって、平成29年度の研究は当初の計画以上に進展した。またハイデガーについての論文を、この視座に関連させて再考することは、研究計画を全体を緊密に連関させることにつながり、研究計画全体を連動させながら遂行していく目途もついたことも大きい。さらに以上二つの研究を論文として公表することができたことも、研究が計画以上に進展したとした理由のひとつである。 以上の二つの成果において中心となっているのは、言語と記号のかかわりについての考察である。言語と記号への問いは、研究計画提出時は、フロイトにおいて主題的に問題にする予定はなかったが、新しい視座が開けたことにより、イメージの問題に加えて、この問題もまたフロイトにおいて問う可能性が開けた。上記のフロイトについての発表もこの視座から問い直すことが可能であり、研究計画全体を統一的に遂行するためのひとつの大きな動因となると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の前半は、ベンヤミンのアレゴリー論の解明に重点を置きながら、アロイス・リーグルとベンヤミンとの関係についての研究にも時間を割く予定である。リーグルについては前年度の大学院演習において取り上げたこともあり、いくつかの主題(歴史理解の方法ならびに触覚論)についてはすでに着手している。この主題をめぐるベンヤミンのリーグルとの関係についての研究の進展が前半期間の課題となる。後半は、フロイトの『トーテムとタブー』の翻訳作業を通じて、ベンヤミンとの関係を含めた精緻な読解を行う。 今後は、平成29年度の成果に基づき、全体の研究計画をさらに理論的に緊密に連関させながら、学会ならびに研究会発表、論文発表の機会を積極的に利用し、研究計画を進めていくつもりである。 また今年度は、大学院の演習ならびに講義においてベンヤミンの『ドイツ悲劇の根源』の第二部「アレゴリーとバロック悲劇」、すなわちアレゴリー論を、そしてタウベスの『西洋の終末論』を扱っており、ここでの議論も研究進展のために積極的に活用したい。
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