研究課題/領域番号 |
17K02197
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
森田 團 西南学院大学, 国際文化学部, 教授 (40554449)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 歴史哲学 / 言語哲学 / ベンヤミン / フロイト / リーグル / イメージ / アレゴリー |
研究実績の概要 |
平成30年度は、ベンヤミンと同時代の思想家たちの関係、とりわけリーグルとフロイトとの関係、ならびにイメージの問題を中心に研究を進めた。 「複製技術時代の芸術作品」において、ベンヤミンはウィーンの美術史家アロイス・リーグルの『後期ローマの美術工芸』における触覚の概念を参照しながら、芸術作品の新たな受容について考察している。このことを主題にした発表「触覚の概念をめぐって――ベンヤミンとリーグル」では、その影響関係の内実を明らかにしようと試みた。 大学院演習ではフロイトの『トーテムとタブー』をとりあげ、そこにおける呪術の概念とベンヤミンの思想との関連について折に触れて考察した。『トーテムとタブー』は、ベンヤミンの言語論を考える際に必要不可欠な基盤であり、今年度はいわば『トーテムのタブー』の基礎的な研究を行ったが、来年度以降の研究の出発点としたい。 「まなざしの原史――ベンヤミン『ベルリンの幼年時代』の「回廊」をめぐって」では、イメージならびにアレゴリーとまなざしとの根本的な関係を考察した。『ベルリンの幼年時代』は幼年期の回想を主題としているが、そこで展開されているのは、同時に幼年期のまなざしを根本的に規定するものの考察でもある。すなわち、この書物はベンヤミンのイメージ論を考察するにあたって必要不可欠なもののひとつである。上記論文において、『ベルリンの幼年時代』に基づいてベンヤミンのイメージ論の基礎的な洞察を明らかにできたことは、今年度の大きな成果のひとつである。 さらに早稲田哲学会でのシンポジウム発表「純粋な言葉としての記号――ヘルダーリンと悲劇的実存」においては、前年度の言語と記号のテーマを受け継ぎ、ベンヤミンの思考の源泉としてのヘルダーリンを扱った。前年度の成果ならびにこの成果を、今年度の成果と合わせてさらに発展させることが来年度の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は研究計画通りにおおむね順調に進められている。平成29年度は言語哲学とハイデガーの関係を中心に論文を執筆したが、今年度は言語哲学から、イメージ論、ないし芸術論に視野を広げて、ベンヤミンの哲学を研究した。 リーグルとの関係に注視することによって、今年度はベンヤミンの芸術受容の理論と歴史性との関係、すなわち、芸術創作の根本にある知覚様態である触覚がいかに複製芸術に基づく芸術受容に関連するのか、つまり起源と現在とのある種の「歴史的」な関係を考察することができたこと、またフロイトとの関係において、『トーテムとタブー』の読解により、ベンヤミンの言語とイメージをめぐる思考を新たな角度からの具体的な研究の基盤を得たことによって、平成30年度の基本的な研究計画は実行されたことになる。 また『ベルリンの幼年時代』についての分析を行うことができたことは、前年度の言語をめぐる研究と今年度の芸術をめぐる研究を橋渡しするものであり、来年度の研究の大きな足掛かりとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、平成29年度、平成30年度の成果を踏まえて、ベンヤミンの言語哲学と歴史哲学との関連を究明する。 その際、大学院演習(フロイトの講読とヤーコプ・タウベスの講読)、大学院講義(ベンヤミンとハイデガーの芸術論)を通じて、本研究テーマを多角的に深めていく。 また学会での研究発表ならびに論文発表を通じて、同テーマをより精緻に展開していくことを試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度書籍購入の都合、残額823円が生じた。残額は今年度、物品費のうちで支出する予定である。
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